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34.独占欲の塊が俺を誰かに任せるか

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 今日はアザゼルがいない。ぼんやりと天井を見上げて、色々と考えてしまった。この世界に無理やり連れてこられて、アザゼルに拉致されて番になったけど……これでよかったのか?

 ほかに選べる道はなかったんだろうか。アザゼルの執着具合を考えれば、逃げても追いかけられるのはわかってる。俺に特殊な能力がない以上、生きていくのが大変なのも理解できた。だから現状は、消去法で安全をとった結果だ。生き延びることを選択したこと自体、正しかったのかどうか。

 やめよう。ぐるぐると考えが回ってる。こういう時はろくな結論に至らないんだよ。かつて受験で悩んだ時の経験から、首を横に振って考えを捨てた。下手の考え休むに似たり……だっけ? 

 平たい腹を撫でる。運動してないからか、体が柔らかくなった気がした。腹が膨らんだりしたらショックだし、少し運動するか。腹筋や腕立て伏せくらいなら問題ないだろ。のそりと起き上がった俺は、室内にいる誰かに肩を揺らす。

「誰、だ?」

「失礼いたしました。魔王陛下の御命により、あなた様のお世話を申しつかった者です。バフォメットとお呼びください」

 アザゼルに命令された? アイツがここに第三者を呼んだのか。見た目に山羊の角っぽいのが付いてる以外、普通の外見だ。でも魔族だろう。本当にアザゼルが寄越したのか。近づかずに様子を見る。

 緊張で喉が乾く。ごくりと喉が動いた。その動きで、バフォメットと名乗った男は水差しを手にする。コップを手に近付いて、ベッド脇のテーブルに置いた。攻撃する様子はないが、まだ信用できない。

 どうしよう、アザゼル――本当にお前が連れてきたのか? だけど敵の可能性もある。シーツをくしゃりと握り、半裸の上半身を隠した。怖さに震えた時、閃くように理解する。

「アザゼルが、命じたのか?」

 そんなわけがない。あの独占欲が服を着て歩いているような男が、監禁した俺を誰かに見せ、他の男と二人にするか? 風呂から食事まで手取り足取り面倒を見る男が、俺を誰かに任せるはずがない! ベッドの上でいつも半裸で寝転がる俺がいるのに、その部屋に侵入を許したことも。服も着せずにいなくなるほど、アイツの執着は薄っぺらいはずがなかった。

「アザゼルっ!」

 この部屋に来て、多分こんなに切実にアイツを呼び戻したいと思ったのは初めてだ。早く来い、アザゼル。じゃないと誰か知らない男の手に掛かるぞ。

「黙れっ!」

 本性を表した男が飛びかかってきたのを、後ろに転がって避ける。ベッドから転げ落ちた瞬間、ふわりと抱き上げられた。

「よくぞ呼んだ。我が最愛の伴侶よ」

 俺を抱き上げたアザゼルの笑みが怖い。なんというか、黒い印象だった。視線だけで殺されそうな男が震える。慌てて姿を消そうとするが、アザゼルはそれを許さなかった。指先がパチンと音を立て、何かが構成される。逃げそびれた男は怯えて丸まった。部屋を覆う薄い膜のような存在を、目で追う。

「もう見えるか?」

「ああ、なんだこれ」

「結界だな」

 さっきまで気づかなかった。つまり今になって張ったのか。

「……俺を、囮にしたな?」

「ハヤトを守るために、敵はすべて洗い出して排除する必要がある」

 間違いなく、俺を囮にした。しかも俺の気持ちも試したんじゃないか? こういう狡いところ、アザゼルだよなと思う。怒るより先に納得してしまった。
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