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11.絆されてなんかないぞ

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 俺の食事が終わると、アザゼルは手早く残りを胃に詰め込んだ。まさにその表現が似合う食べ方だ。味わう気はないようで、義務的に食べる。だが動きが優雅で洗練されている上、美形なので粗雑に見えなかった。

「もっと味わって食え。作った人に失礼だし、体に悪い」

 思わず口を挟むくらいには、酷かった。俺の言葉を聞くなり、アザゼルの手がぴたりと止まる。目を見開いてじっくり俺の顔を見た後、ぼそりと呟いた。

「待つ時間が退屈ではないか? いま、余の心配を……」

 体に悪いとは言った。よく母親に言い聞かされた言葉だ。つい口を出たが、そんなに驚くセリフだったかな。魔王にそんな口を利く奴がいなかった可能性はあるけど。

 膝の上でもぞもぞ動き、アザゼルに向き直る位置に移動する。縛られたままの手を伸ばし、彼の綺麗な顔を両手で包んだ。頬の下の方に触れるのが限界だ。

「胃に負担がかかるし、肌も荒れる。心配くらいするさ。だけど、好きじゃないからな」

 嬉しそうに目を輝かせたので、しっかり釘を刺した。優しくすると、すぐに抱こうとする。

「ハヤトは余の嫁だぞ」

「勝手に決めるな。嫁が欲しいなら女を召喚すればいいじゃないか」

 唇を尖らせて文句を言う。これだけ美形が甘やかしてくれるなら、多少異形であっても喜んで身を捧げる女性がいるはず。俺みたいに無愛想で可愛くない男を嫁にする必要はない。言い切った俺の尖らせた唇を指で押し戻し、顔を近づけたアザゼルに「美形は得だな」と吐き捨てたら喜ばれた。そうじゃない。

「余はハヤトが欲しいのであって、抱ける器が欲しいのではない。女でも男でも、ハヤトだから欲情する」

 平然と言い切っても変態っぽくないのは、美形だからか? 俺の短い黒髪を撫でながら、首筋にキスを落とした。触れただけの唇の感触に、ぞくりと背筋が震える。甘い感じの……そんなわけない。じくりと腹の奥が疼く気がした。

「俺は欲情しない」

「安心いたせ、その気にさせるのは余の役目だ」

 安心できない。そう思うのに、愛おしそうに囁く声や触れる指の優しさに絆されそうな自分がいた。

 だって、この世界からもう逃げられない。人間はクソみたいな連中で、俺を贄にして放り出した。魔族みたいな強い奴に守られなければ、俺は生きていけないんじゃないか? 魔法がある魔族はいいが、人間は群れて暮らしていた。その理由がこの世界の過酷さにあるとしたら。中世っぽい文明レベルで、ひ弱な現代人の俺がサバイバルできる可能性は低い。

 これは庇護者に絆されただけ。コイツを愛したりしない。利用してやる。自分に何度も言い聞かせた。
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