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47.猫はストレスに弱いと主張してみる
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砂がじゃりじゃりするのに、全く気にせずピアスも舐め取った。元通りピアスを嵌めると、満足げに口元が緩む。エリシェルやアランの呆れ顔と、見ないフリで警戒を怠らないボディーガードの無言が痛い。自分の手でつけることに意味があるらしい。
こういう愛情表現はオレには出来ないな。口の中じゃりじゃりするの、我慢できないし。側近が渡した水で口を濯ぐなら、ピアスを洗った方がよかったんじゃないか?
機嫌が上昇したリューアの指が、オレの汚れて埃だらけの髪を手櫛で整え始めた。
やっぱりコイツの考えは理解できない。こんなに我が侭でどうしようもなくて、オレに対する態度だって酷いのに……時々妙にかわいく思えるんだよな。まさしく未知の生物ってやつ。
埃を払ってゴミを取り除いたオレの金髪を弄りながら、リューアがようやく秘書エリシェルに目配せした。それが何を意味するのかは、おおよそ見当がつく。
頷いたエリシェルが数人連れて離れた。
「ティン様を解放しなさい。引き換えに、あなたの要求を聞く準備があります」
「うるせぇ! こいつを殺してオレも死ぬんだ。すべてはランクレ―家のせいで……くそっ……おれは、家族を失った……だぞ」
涙声の犯人と、偽交渉を任されたエリシェルが怒鳴り合って会話を成り立たせる。よく聞くと譲歩しているように見えるエリシェルだが「要求を聞く」のではなく、「聞く準備がある」だけだ。この辺の言葉の選び方、操り方はさすが才女と言わざるを得ない。
喉を枯らして叫ぶエリシェルは、明日声が出ないだろう。喉が腫れると辛いから、特別手当と休暇を手配してやれよ。やりとりを見ながら、明らかに業務外労働の彼女に同情した。
鼻水を垂らして涙でぐしゃぐしゃの犯人に、オレは違和感を覚える。何かがおかしい、オレの予想した犯人像と違いすぎた。もっと冷淡で、己の腕に自信があるプロのはずだ。
「ん、っと……リューア。ちょっといいか」
袖を引いて彼の注意を惹きつける。抱き締められた状態のオレは、寄り掛かった楽な姿勢でリューアの整った顔を見上げた。
「さっきあのオバサンに襲われかけたんだけど……」
「サリューンの伯母上か!?」
言葉を遮る男の唇を、オレは指で押さえた。ったく、人の話の腰を折りやがって。
「黙って聞けっての。いいか、あのオバサンが会場内で巻き込まれたんだから、あの犯人はオバサンと無関係だろ」
「そうだろうな……自分の身を危険に晒す手段を取る、度胸はない」
きっぱりと親族をこき下ろす男に頷いた。
「とすると、どの事件があのオバサンの差し金? コイツは素人で、爆破犯は別の奴だし……そもそも最初の狙撃はA級スナイパーだ。実行犯が違うが命じた奴は一緒なのか」
あの素人は明らかに私怨だろう。家族がどうこう叫んでたから、間違いない。考え込んだオレ達の後ろから、聞きたくない人物の声が飛んできた。
「……私が命じたのは、会長室の爆破とエレベーターの落下だけよ。ルーイまで巻き込むつもりはなかったわ……それで怒ってるのよね? ルーイ」
振り返らなくてもわかる。花のデザインで淡いオレンジのドレスを着た――未知の生物の声だ。
「お久しぶりです、伯母上、ご機嫌いかがですか?」
オレには上流社会の考えがわからない。よく自分の命を狙ったと公言する犯罪者相手に、のんびりご機嫌伺いするよな~。これが上流階級なら、オレは一生馴染めないだろう。腹の探り合いとか、こういうの苦手だ。自白してんだから逮捕しろよ。
「あなたが死んでくれたら、最高だったわ」
「それは残念です。死ぬ予定はないもので……それとルーイは私の子猫ですから手を出さないでください。伯母上」
ばちばちと火花の散る2人の殺伐としたやり取りは、もっと悲惨な周囲の状況をうやむやにしながら続けられる。このオバサン相手に強く出られるのは、オレの知る限りリューア1人だった。ランクレ―家の重鎮である以上、他の連中は口出しできない。
もっと言い負かしてオレに近づかないようにして欲しかった。
野良でも猫はストレスに弱いんだぞ、もっと大切に飼え!!
こういう愛情表現はオレには出来ないな。口の中じゃりじゃりするの、我慢できないし。側近が渡した水で口を濯ぐなら、ピアスを洗った方がよかったんじゃないか?
機嫌が上昇したリューアの指が、オレの汚れて埃だらけの髪を手櫛で整え始めた。
やっぱりコイツの考えは理解できない。こんなに我が侭でどうしようもなくて、オレに対する態度だって酷いのに……時々妙にかわいく思えるんだよな。まさしく未知の生物ってやつ。
埃を払ってゴミを取り除いたオレの金髪を弄りながら、リューアがようやく秘書エリシェルに目配せした。それが何を意味するのかは、おおよそ見当がつく。
頷いたエリシェルが数人連れて離れた。
「ティン様を解放しなさい。引き換えに、あなたの要求を聞く準備があります」
「うるせぇ! こいつを殺してオレも死ぬんだ。すべてはランクレ―家のせいで……くそっ……おれは、家族を失った……だぞ」
涙声の犯人と、偽交渉を任されたエリシェルが怒鳴り合って会話を成り立たせる。よく聞くと譲歩しているように見えるエリシェルだが「要求を聞く」のではなく、「聞く準備がある」だけだ。この辺の言葉の選び方、操り方はさすが才女と言わざるを得ない。
喉を枯らして叫ぶエリシェルは、明日声が出ないだろう。喉が腫れると辛いから、特別手当と休暇を手配してやれよ。やりとりを見ながら、明らかに業務外労働の彼女に同情した。
鼻水を垂らして涙でぐしゃぐしゃの犯人に、オレは違和感を覚える。何かがおかしい、オレの予想した犯人像と違いすぎた。もっと冷淡で、己の腕に自信があるプロのはずだ。
「ん、っと……リューア。ちょっといいか」
袖を引いて彼の注意を惹きつける。抱き締められた状態のオレは、寄り掛かった楽な姿勢でリューアの整った顔を見上げた。
「さっきあのオバサンに襲われかけたんだけど……」
「サリューンの伯母上か!?」
言葉を遮る男の唇を、オレは指で押さえた。ったく、人の話の腰を折りやがって。
「黙って聞けっての。いいか、あのオバサンが会場内で巻き込まれたんだから、あの犯人はオバサンと無関係だろ」
「そうだろうな……自分の身を危険に晒す手段を取る、度胸はない」
きっぱりと親族をこき下ろす男に頷いた。
「とすると、どの事件があのオバサンの差し金? コイツは素人で、爆破犯は別の奴だし……そもそも最初の狙撃はA級スナイパーだ。実行犯が違うが命じた奴は一緒なのか」
あの素人は明らかに私怨だろう。家族がどうこう叫んでたから、間違いない。考え込んだオレ達の後ろから、聞きたくない人物の声が飛んできた。
「……私が命じたのは、会長室の爆破とエレベーターの落下だけよ。ルーイまで巻き込むつもりはなかったわ……それで怒ってるのよね? ルーイ」
振り返らなくてもわかる。花のデザインで淡いオレンジのドレスを着た――未知の生物の声だ。
「お久しぶりです、伯母上、ご機嫌いかがですか?」
オレには上流社会の考えがわからない。よく自分の命を狙ったと公言する犯罪者相手に、のんびりご機嫌伺いするよな~。これが上流階級なら、オレは一生馴染めないだろう。腹の探り合いとか、こういうの苦手だ。自白してんだから逮捕しろよ。
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「それは残念です。死ぬ予定はないもので……それとルーイは私の子猫ですから手を出さないでください。伯母上」
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もっと言い負かしてオレに近づかないようにして欲しかった。
野良でも猫はストレスに弱いんだぞ、もっと大切に飼え!!
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