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44.飼い主が捕まった時、猫は動くのか

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「……ところで、リューア達と連絡はとれたか?」

 強張っていた喉から絞り出した質問に、アランが複雑な事情を匂わせる受け答えをした。

「いえ、それが……その。まあ、いろいろありまして」

 問い返そうとしたオレ達の脇に、天井から大きな欠片が落ちる。飛び散った破片に驚いたオバサンを、彼女の護衛が引きずって離れた。こちらはアランのお陰で無傷だ。

 少し先に逃げ込んだお嬢さん達が見えた。秘書のエリシェルも姿もあるなら、あのあたりにラルク達もいるのだろう。知り合いはみんな無事みたいだ。心配しなくてもリューアは絶対生き残ってる。

「見事な爆破だよな、崩れ過ぎず、ぎりぎりのとこで……」

 周りを見回しながら感心して声をあげる。建物全体を崩壊させる直前で火薬量を調整していた。目的のリューアを確実に殺すため、他の手段を用意してる可能性も出てきたぞ。建物で圧し潰そうとして逃げられたら、目も当てらない。

 騒動の中で人が集まる場所は、重要人物がいる場所だ。危険が迫れば、散っていた護衛はすべて警護対象の元へ集合するよう訓練されていた。その特性を利用して追い詰めることを考えたなら、単純な依頼じゃなくて本人も恨みがあるのかも知れない。

 注意深く見回す先で、何かが光った。床につもった砂埃の中で、反射する何か。足元に山ほど落ちたガラス片かと思ったが、少し光り方が違っていた。多方向へ光を放つ青みがかった――。

「……ああぁッ! あった!!」

 叫んだ瞬間、

「てめえら、動くなよ!」

 救助の人間も含めて、声の範囲にいた全員が動きを止めた。しんと静まり返った元ホールの中央付近で、男が銃を引っ張り出す。

 見覚えのある銃は、精密度が高い最新型のオートマか? カタログで読んだ情報通りなら、22発装填できるタイプだ。好みじゃないから買わなかったが、性能は優れてる。

 足元に転がしてた青年の頭に銃口を押し付け、茶髪の男は警戒の色を露わに周囲を見回した。爆弾犯はコイツかも知れない。捕まったのは人質の価値がある、おそらくお偉いさんの息子あたりだろう。

 しかし、今のオレの関心は爆弾犯よりピアスだった。ようやく見つけたピアスが目の前にあり、あと少し前に出たら届きそうだ。この状況で動けないのは辛かった。犯人は1人だし、奴の視線が逸れた隙に拾ってやる。

「……ん?」

 爆弾犯の容貌になんとなくだが、見覚えがあった。どこかで会ったが、紹介されるような会い方じゃない。すれ違ったか、その他大勢の中にいたか。その程度だが、記憶の片隅を突く感覚が警鐘となってじっと見つめた。

 足元の人質は黒髪か、ランクレ―家は黒髪が多いから……。そこまで考えて、今度は人質に集中する。長い黒髪、伏せていて顔は見えないが、あのスーツはラルクの新作で、オレと対になったデザインの?

「アラン、あれ」

 リューアじゃないか? 

「……そうですね」

「だよな」

 互いに固有名詞を避けて確認し合う。多分、あれはリューアだと思うんだ。なんだってアイツは大人しく捕まってる? そもそも護衛が大量に周囲にいたはずだろ。ありえない状況だった。世界で一番人質に取っちゃいけない相手で、もし人質に出来たら最高のジョーカーだ。

「ティン様!!」

 犯人を挟んだ向こう側で護衛が叫ぶ声が、オレ達の懸念を肯定した。オレが呼ぶ「リューア」は愛称で、通常は「ティン」が呼び名だ。

 人類最高の権力者、ティン・リューシア・S・ランクレー。ご本人が人質で間違いなさそうだった。隣でアランが「何してたんだ、あいつら」と同僚を罵る。

 現在のアランはオレの専属護衛だが、金を払う雇い主はリューアで、当然ながらリューアの安全は最優先事項だった。

 奇妙だな、アイツが大人しく捕まっている理由がわからない。人並み以上の護身術は身につけているはずだし、捕まって大人しく床に座るような性格もしてない。あれでは金持ちの無力な坊ちゃんそのものじゃないか。
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