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42.首輪が取れるとそれはそれで不安
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隣で燃えてるテーブルクロスの成れの果てを眺め、出がけにポケットに隠した煙草を引っ張り出す。リューアが隣にいたら叱られること請け合いだが、今ならどさくさ紛れ……大丈夫だろう。硝煙や爆薬の臭いが漂う中で煙草を吸ってもバレないはずだ。
バレたらそのとき考えればいいさ。
「やっぱこの一服がないと……」
大きく吸い込んだ煙が肺を満たすのを感じながら、幸せを噛みしめる。リューアの隣は居心地がいいし楽しいが、それなりにストレスも多いのだ。吐き出した煙と漂う紫煙が混じるのを目で追いながら、オレはほっと安堵の息をついた。緊張を解くには最高の娯楽だ。特に裏の仕事の後の一服は必須アイテムだった。
左側頭部に痛みが走り、そっと手でなぞってみる。切れてる、のか? 血が流れていてぬるりと指先が滑った。吸い終えた1本目を片づけようと灰皿を探す。もうこれは習性だが、ゴミ箱どころか建物全体がゴミになった状態で肩を竦めて、足元に押し付けた。
2本目を加えながら見回せば、会場は地獄絵図さながら――ごろごろ転がる死体の数に溜め息が漏れる。もう少し静かにスマートに事を運べないんだろうか。テロリストだと名乗る連中は、派手さ命でぶっ放すが迷惑この上ない。
リューア1人を狙うなら、オレ達スナイパーのように当事者だけ殺せばいい。仕掛けが大げさすぎるのだ。下手くそ共め。
まあ、オレもリューアを狙って失敗した口だから大きなこと言えないが。それだけの価値がある人間だと判断するのは、ちょっと基準が違う気がする。しかし依頼主も節操がないな。狙撃の後は爆破なんて――ん? そもそも前の狙撃手はどうした?
アイツはなかなかやり方がスマートで気に入ったんだが……二重に撃ち抜いて防弾ガラスを破る手法なんて、技術より発想の勝利だ。一度顔を見ておきたかった。
そこまで考えたところで、ずきんと左側頭部が痛む。ついでに吐き気に襲われ、火をつけていなかった煙草を落とした。口元を手で押さえる。
こういう内側からの鈍痛や気持ち悪さは、耐えようがなくて嫌いだ。これなら傷の痛みの方がマシだ。
ズズン……振動が伝わってくる。どこかで耐え切れなくなった柱が折れた感じだ。このままここで待っていても平気か? 全体に建物が崩れる可能性はどのくらいだ?
「ったく、気分が悪いってのに最悪な手法を選びやがって、見つけたらただじゃ……えっ!?」
文句を呟いていた唇が止まり、左側に伸ばした手が止まる。指先が触れた耳をゆっくりとなぞり直した。
まさか、ね……。
――絶対になくすな。
ついさっき聞いたリューアの言葉がリフレインした。念のために確認しても、やはり指先にその感触はない。
嘘だろ――ヤバイ、絶対にマズイぞ!!
左耳のピアスがない。あの高そうなサファイアのピアスが、だ。恐る恐る確認した右耳にはついていて、その点だけは安心した。両方なかったら最悪だ。
ピアスを着けたときのアイツは機嫌がよかった。オレじゃなくても気づけるくらい、一目瞭然のご機嫌な表情。あれほど満足げなアイツは珍しいのに、ピアスを失くしたなんて。
「……言えるわけ、ねえだろ」
気分は半泣きである。怒られる、叱られる、何より怖いのが代償を求められることだった。キス位で許してくれるわけないよな? 値段面より、気持ちの面で問い詰められるに決まってる。
どうしよう、この辺に落ちてないかな。落としたとしたら爆破の衝撃だろうから、この周辺に落ちてる可能性は高い。足元の瓦礫をいくつかひっくり返してみるが、あんな小さなものがそう簡単に見つかるはずがなかった。
ごそごそと砂をかき回し、壁の一部らしい破片をいくつか放り出して10分程頑張った。そう、オレは努力したのだ。だが見つからない。仕事用につけられた長い爪を剥して放り出し、盛大な溜め息を吐いた。
「ダメだ、もう謝って買ってもらおう。強請ればなんとかなる、たぶん」
多少、尻が心配だが……壊しはしないだろう。
元来、面倒くさがりのオレが10分も集中して小粒の石探しなんて、無理があった。これ以上続けても見つかる気がしないし、先ほどぶり返した吐き気に、気力が削がれていく。足元の砂を蹴飛ばし、ぺたんと座り込んだ。
バレたらそのとき考えればいいさ。
「やっぱこの一服がないと……」
大きく吸い込んだ煙が肺を満たすのを感じながら、幸せを噛みしめる。リューアの隣は居心地がいいし楽しいが、それなりにストレスも多いのだ。吐き出した煙と漂う紫煙が混じるのを目で追いながら、オレはほっと安堵の息をついた。緊張を解くには最高の娯楽だ。特に裏の仕事の後の一服は必須アイテムだった。
左側頭部に痛みが走り、そっと手でなぞってみる。切れてる、のか? 血が流れていてぬるりと指先が滑った。吸い終えた1本目を片づけようと灰皿を探す。もうこれは習性だが、ゴミ箱どころか建物全体がゴミになった状態で肩を竦めて、足元に押し付けた。
2本目を加えながら見回せば、会場は地獄絵図さながら――ごろごろ転がる死体の数に溜め息が漏れる。もう少し静かにスマートに事を運べないんだろうか。テロリストだと名乗る連中は、派手さ命でぶっ放すが迷惑この上ない。
リューア1人を狙うなら、オレ達スナイパーのように当事者だけ殺せばいい。仕掛けが大げさすぎるのだ。下手くそ共め。
まあ、オレもリューアを狙って失敗した口だから大きなこと言えないが。それだけの価値がある人間だと判断するのは、ちょっと基準が違う気がする。しかし依頼主も節操がないな。狙撃の後は爆破なんて――ん? そもそも前の狙撃手はどうした?
アイツはなかなかやり方がスマートで気に入ったんだが……二重に撃ち抜いて防弾ガラスを破る手法なんて、技術より発想の勝利だ。一度顔を見ておきたかった。
そこまで考えたところで、ずきんと左側頭部が痛む。ついでに吐き気に襲われ、火をつけていなかった煙草を落とした。口元を手で押さえる。
こういう内側からの鈍痛や気持ち悪さは、耐えようがなくて嫌いだ。これなら傷の痛みの方がマシだ。
ズズン……振動が伝わってくる。どこかで耐え切れなくなった柱が折れた感じだ。このままここで待っていても平気か? 全体に建物が崩れる可能性はどのくらいだ?
「ったく、気分が悪いってのに最悪な手法を選びやがって、見つけたらただじゃ……えっ!?」
文句を呟いていた唇が止まり、左側に伸ばした手が止まる。指先が触れた耳をゆっくりとなぞり直した。
まさか、ね……。
――絶対になくすな。
ついさっき聞いたリューアの言葉がリフレインした。念のために確認しても、やはり指先にその感触はない。
嘘だろ――ヤバイ、絶対にマズイぞ!!
左耳のピアスがない。あの高そうなサファイアのピアスが、だ。恐る恐る確認した右耳にはついていて、その点だけは安心した。両方なかったら最悪だ。
ピアスを着けたときのアイツは機嫌がよかった。オレじゃなくても気づけるくらい、一目瞭然のご機嫌な表情。あれほど満足げなアイツは珍しいのに、ピアスを失くしたなんて。
「……言えるわけ、ねえだろ」
気分は半泣きである。怒られる、叱られる、何より怖いのが代償を求められることだった。キス位で許してくれるわけないよな? 値段面より、気持ちの面で問い詰められるに決まってる。
どうしよう、この辺に落ちてないかな。落としたとしたら爆破の衝撃だろうから、この周辺に落ちてる可能性は高い。足元の瓦礫をいくつかひっくり返してみるが、あんな小さなものがそう簡単に見つかるはずがなかった。
ごそごそと砂をかき回し、壁の一部らしい破片をいくつか放り出して10分程頑張った。そう、オレは努力したのだ。だが見つからない。仕事用につけられた長い爪を剥して放り出し、盛大な溜め息を吐いた。
「ダメだ、もう謝って買ってもらおう。強請ればなんとかなる、たぶん」
多少、尻が心配だが……壊しはしないだろう。
元来、面倒くさがりのオレが10分も集中して小粒の石探しなんて、無理があった。これ以上続けても見つかる気がしないし、先ほどぶり返した吐き気に、気力が削がれていく。足元の砂を蹴飛ばし、ぺたんと座り込んだ。
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