39 / 53
39.金持ちは無駄がお好き
しおりを挟む
臨時とはいえ、特設会場は立派だった。三角屋根を形作ったテントに似た建物は、たった1ヶ月で建てられ、僅か1週間の祭りが終わると解体される。細部に至るまで手を抜かずに作った会場が、その美しさを誇れるのはたったの7日間なのだ。
金持ちのすることはよくわからない。せっかく作った建物なんだから、その後も利用すればいいのに。貧乏くさい考え方かも知れないが、溜め息が漏れた。しかし毎年デザインを変えて作る会場は、これ自体が観光の目玉となるという。ああ、もったいない。
心の中でぼやきながら、玄関ホールへの階段へ足を踏み出した。右隣のリューアが肩を庇ってくれるので、体調の悪さを理由に寄り掛かって歩いた。体温が低いリューアの指が触れて、微熱ありのオレは心地よさに口元が緩んでしまう。
建物の内部は予想通りの派手さ、これは『ホテルGIRAFFE』と張るかも知れない。色は白を基調としているのに、要所要所に現職を使用していた。この色彩感覚と配色センスは、『シェーラ』のラルクだ。趣味が悪い! と言われるギリギリ手前の色遣いは彼の十八番だった。
リューアのお気に入りが、今回の設計にかかわらない理由がない。ましてや今年はショーを中止したのだ。きっと設計やデザインでこき使う予定があったからだろう。
デザイナーの卵が、エリシェルに才能を見出された。金は出すが口は出さないパトロンを得て、一流デザイナーの仲間入りをする。シンデレラストーリーはいいが、偶然顔を見せたオレを見初めて『イメージモデルが彼でなければ無理』とごねたのが、オレがこの世界に入った原因だった。
しかもリューアが了承してしまった。この頃すでにリューアを狙って失敗したオレは捕獲されていて、逃げ場はなかった。モデルになりたい奴なんて掃いて捨てる程いるんだから、そいつらにチャンスをやればいいのに……。
リューアはすでにモデルを引退していたし、あれよあれよと祭り上げられ――モデルになっていた。策略や謀略にかけて、オレはリューアに勝てる気がしない。
後戻りできない状況になり、現在に至るわけだが……有名税は想像より高かった。目立つし、大嫌いなパーティーは山ほど呼ばれ、事あるごとに呼び出されて撮影会。元から自分の女顔が嫌いなオレにしてみたら、モデルの現状は不思議なだけ。
日参するラルクに根負けしたわけだが、彼のデザインは正直好みだった。色使いが派手なのだけ抑えてくれたら、文句のつけようがない。
誰しもどこかに欠点があるものだが、一般人受けする斬新な色使いらしいから……オレが地味好みってことか?
「どうした?」
周囲を見回したオレに、リューアが顔を寄せて囁く。キスされないように押しのけながら、ぽつりと指摘した。
「ラルクのデザインだ」
「さすがにわかるか」
感心した響きのリューアに、オレは「分からない奴がいたら、逆に紹介して欲しいぜ」と独りごちる。会場内の視線が集中するのは、気のせいじゃないだろう。誰より目立つ男リューアと一緒にいて、注目されないわけがなかった。
雑誌で噂になってるのもあるだろうが、とにかくリューアは目立つ。外見も、計算された表情や仕草も、すべてが他者の視線を釘付けにする。
ちなみに、今のオレ達の恰好も『シェーラ』の新作だった。間違いなく会場と合わせたデザインだ。リューアは薄茶がかった天然の麻を基調に、落ち着いたデザインで纏めている。襟や袖に青い差し色が鮮やかだった。
隣のオレは正反対に目立つ色で、派手な青と白。気分的にはまた青か? ってカンジだが、リューアの好みを反映した結果だと思う。仕事で赤も着るが、青い服が全体的に多い。
長めの金髪は淡い色で、瞳は銀にも見えるアイス・グレー。元から肌が白くて、全体的に色が薄い。おまけに高額サファイアのピアス付けて、モデルとしての美貌が加われば視線を集めない理由がない。どうせ目立つなら徹底的に視線を集めてやろうと開き直った。
こんな狙撃チャンス、他のスナイパーはこぞって繰り出したはずだ。ランクレ―家当主に親族が勢ぞろい、当然だが政治家や有力者が集まる会場はターゲットの山だった。オレもケガしてなければ、こっそり裏稼業の方へ回りたかったぞ。
外見から予想できない、丸い形の玄関ホールを抜けると、会場は目の前だった。一応式典会場という名目だが、実際はパーティー会場に過ぎない。飲んで食べて騒ぐのは、毎年の恒例なのだ。
「怠い、痛い、眠い」
文句を垂れ流しながらエスコートされるオレは、リューアに寄り掛かって足を踏み入れた。冷たい手が触れるたびに首を竦めてしまうが、気持ちいいので逃げる気はない。大人しくついていくと、満足げだったリューアが舌打ちした。
金持ちのすることはよくわからない。せっかく作った建物なんだから、その後も利用すればいいのに。貧乏くさい考え方かも知れないが、溜め息が漏れた。しかし毎年デザインを変えて作る会場は、これ自体が観光の目玉となるという。ああ、もったいない。
心の中でぼやきながら、玄関ホールへの階段へ足を踏み出した。右隣のリューアが肩を庇ってくれるので、体調の悪さを理由に寄り掛かって歩いた。体温が低いリューアの指が触れて、微熱ありのオレは心地よさに口元が緩んでしまう。
建物の内部は予想通りの派手さ、これは『ホテルGIRAFFE』と張るかも知れない。色は白を基調としているのに、要所要所に現職を使用していた。この色彩感覚と配色センスは、『シェーラ』のラルクだ。趣味が悪い! と言われるギリギリ手前の色遣いは彼の十八番だった。
リューアのお気に入りが、今回の設計にかかわらない理由がない。ましてや今年はショーを中止したのだ。きっと設計やデザインでこき使う予定があったからだろう。
デザイナーの卵が、エリシェルに才能を見出された。金は出すが口は出さないパトロンを得て、一流デザイナーの仲間入りをする。シンデレラストーリーはいいが、偶然顔を見せたオレを見初めて『イメージモデルが彼でなければ無理』とごねたのが、オレがこの世界に入った原因だった。
しかもリューアが了承してしまった。この頃すでにリューアを狙って失敗したオレは捕獲されていて、逃げ場はなかった。モデルになりたい奴なんて掃いて捨てる程いるんだから、そいつらにチャンスをやればいいのに……。
リューアはすでにモデルを引退していたし、あれよあれよと祭り上げられ――モデルになっていた。策略や謀略にかけて、オレはリューアに勝てる気がしない。
後戻りできない状況になり、現在に至るわけだが……有名税は想像より高かった。目立つし、大嫌いなパーティーは山ほど呼ばれ、事あるごとに呼び出されて撮影会。元から自分の女顔が嫌いなオレにしてみたら、モデルの現状は不思議なだけ。
日参するラルクに根負けしたわけだが、彼のデザインは正直好みだった。色使いが派手なのだけ抑えてくれたら、文句のつけようがない。
誰しもどこかに欠点があるものだが、一般人受けする斬新な色使いらしいから……オレが地味好みってことか?
「どうした?」
周囲を見回したオレに、リューアが顔を寄せて囁く。キスされないように押しのけながら、ぽつりと指摘した。
「ラルクのデザインだ」
「さすがにわかるか」
感心した響きのリューアに、オレは「分からない奴がいたら、逆に紹介して欲しいぜ」と独りごちる。会場内の視線が集中するのは、気のせいじゃないだろう。誰より目立つ男リューアと一緒にいて、注目されないわけがなかった。
雑誌で噂になってるのもあるだろうが、とにかくリューアは目立つ。外見も、計算された表情や仕草も、すべてが他者の視線を釘付けにする。
ちなみに、今のオレ達の恰好も『シェーラ』の新作だった。間違いなく会場と合わせたデザインだ。リューアは薄茶がかった天然の麻を基調に、落ち着いたデザインで纏めている。襟や袖に青い差し色が鮮やかだった。
隣のオレは正反対に目立つ色で、派手な青と白。気分的にはまた青か? ってカンジだが、リューアの好みを反映した結果だと思う。仕事で赤も着るが、青い服が全体的に多い。
長めの金髪は淡い色で、瞳は銀にも見えるアイス・グレー。元から肌が白くて、全体的に色が薄い。おまけに高額サファイアのピアス付けて、モデルとしての美貌が加われば視線を集めない理由がない。どうせ目立つなら徹底的に視線を集めてやろうと開き直った。
こんな狙撃チャンス、他のスナイパーはこぞって繰り出したはずだ。ランクレ―家当主に親族が勢ぞろい、当然だが政治家や有力者が集まる会場はターゲットの山だった。オレもケガしてなければ、こっそり裏稼業の方へ回りたかったぞ。
外見から予想できない、丸い形の玄関ホールを抜けると、会場は目の前だった。一応式典会場という名目だが、実際はパーティー会場に過ぎない。飲んで食べて騒ぐのは、毎年の恒例なのだ。
「怠い、痛い、眠い」
文句を垂れ流しながらエスコートされるオレは、リューアに寄り掛かって足を踏み入れた。冷たい手が触れるたびに首を竦めてしまうが、気持ちいいので逃げる気はない。大人しくついていくと、満足げだったリューアが舌打ちした。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
【完結】うたかたの夢
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる