上 下
32 / 53

32.納得出来るわけねぇだろ!

しおりを挟む
 スタッフが裏口から逃げ……帰った後、ラルクと一緒にクルマに回収されたオレは安堵のあまり、リューアに寄りかかって眠りかけていた。あの恐怖の待ち時間は長かったのか、短いのか。感覚として半日ほどの恐怖体験だったが、実際は18分の最短記録らしい。

 優秀な秘書エリシェルの報告を右から左に聞き流し、ひとつ欠伸をする。そのまま頭を預けたリューアの肩が温かくて眠りを誘う。クルマがわずかに揺れるのもいけなかった。さらに眠くなる。

「眠るのか? ならば横になれ」

 向かいに座るエリシェルもラルクも、オレの性格はよく知ってる。猫そのもので即物的なオレが寝転がっても、2人も文句を言わなかった。この場で最強の飼い主が許可を出したので、文句は言えないのだが――。

「……前より揺れる」

 横になったオレの髪を撫でながら、膝枕をするリューアが苦笑する。見上げる先で、まだ腫れの残る唇が言葉を紡ぐのを眺めた。

「運転手を変えた」

「なるほど……あふ……」

 欠伸に遮られて、そのまま目を閉じた。耳は聞こえているが、意識はほとんど眠っている。同業者の中には他人の気配があると眠れないなんて、神経質なことを言う輩も多いが、オレはまったく気にならなかった。

 そんな繊細な神経してたら、生き残れない環境で育った。どんな状況でも、それこそ音が反響する下水道の臭い床でも寝られる図太さがなけりゃ、とっくに死体になっていただろう。

「ラルク、残ったルーイの撮影はどのくらいある?」

「そうですね、表紙を入れて3~4着です」

 最短でも半日コースの撮影時間が告げられたところで、リューアの指先が頬を滑って、唇の上に置かれた。クルマの揺れで、触れたり離れたりするのが焦ったい。撮影用の化粧を落とさなかったので、薄くグロスがついた唇を拭うように指が動いた。

「ん……」

 吐息のような声が漏れると、指先は離れていった。擽ったいから離れてくれていいが、なぜか物足りない気がする。

「ルーイの肩もまだ完全ではない。エリシェル」

「はい、詳細はこちらに」

 秘書がいくら優秀でも、詳細を用意しているのはおかしい。ぼんやりと判断しながらも、オレの頭はほとんど活動していなかった。自覚がないこの時間を、オレは数日後に恨むこととなった。目先の眠気に負けたオレが悪い。








「ちょ、まて!」

「待つわけがないだろう。時間がない、急ぐぞ」

 忙しいはずのランクレー家ご当主様に腰を抱かれ、ポーズを取らされる。カメラを向けられると顔を作るのは、もう条件反射だった。そしてシャッター音が響く。

 レトロな気もするが、撮られた瞬間を意識させるため、今でもカメラはシャッター音なるカシャという音を響かせ活躍していた。

「今のいい顔、少し体を捻って。そう……」

 乗ってきたカメラマンには悪いが、なんとか中断したいオレが足掻く。しかし手足を上手に絡められ、リューアの望む写真が大量に撮影された。

「お疲れ様でした」

「おつかれ~」

 あちこちで声が上がり、今季のカタログ撮影が終了する。溜め息をついたオレは、整えられた髪をぐしゃりと崩した。ぐいっと髪を掴まれてのけぞると、その首筋にリューアが噛みつく。

「っ……やめろ、っての」

 引き剥がしたオレは気付いていなかった。この時にカメラマンはシャッターを押し、その1枚が今季の表紙に選ばれたことを――。

 やられた!! 思ってみても後の祭り。

 10日後のカタログの試し印刷を片手に、大きな溜め息をついた。あのオバサン避けだと思えば、そう悪くない写真かもしれない。自分をそう慰めなければ、外に出られなくなりそうだ。

 恥ずかしさに顔を赤く染めたオレの顎に、するりと手が触れる。強引に向かせるくせに、肌を傷つけないよう気遣う指は、意味ありげに唇をなぞった。

「なんだよ」

「先日の詫びを入れてもらおうか」

「……あ、あれは」

 言い訳をする前に唇を塞がれ、逃げる間も無く服を脱がされる。助けてもらった礼と先日の詫びってことで、納得――出来るわけねぇだろ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

きよひ
BL
 ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。  カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。  家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。  そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。  この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。 ※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳) ※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。 ※同性婚が認められている世界観です。

『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。 ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。 確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。 絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。 そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。 「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」 冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。 ※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編 「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...