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27.嬉しくないわけがない
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結局、気がすむまで好き放題されてしまった。記憶にあるだけで3回は出されたと思う。記憶があやふやなのは、途中で意識が飛んだからだ。淫らな水音をたてて抜いた男を蹴とばそうとして、失敗する。
「まだ足りないのか?」
わかってるくせに揶揄うリューアを、振り返りざま睨みつけた。「好きにしろ」と許可を出したのはお前だと笑う男へ、クッションをひとつ投げつける。絆された少し前の自分を盛大に罵りながら、ぼやいた。
「くそっ、尻が痛い」
「リヴィ……誘っているのか?」
「そんなわけあるか!」
空気を読むのが上手いというか、大企業のトップだから察するのが得意なのか。どちらにしろ、リューアはオレがマジ切れする前に、絶妙のタイミングで手を引く。腹立たしいくらい野良猫の扱いに長けた男だった。
髪を手櫛で梳くリューアのご機嫌麗しい表情に、嫌味のひとつでもと口を開く。
「随分と機嫌がいいけど。オレがケガしたのが、そんなに喜ばしいのかよ」
一瞬驚いた顔をしたくせに、すぐ表面を取り繕うあたりは、本当に凄いと感心した。企業家相手なら、もっと傲岸不遜に振る舞うんだろう。予想外のことを言い出す奴も少ないし、きっとオレみたいな例外の塊はコイツの周辺にいないタイプだ。
「そうだな、嬉しいぞ」
まさかの肯定に瞬きして絶句した。オレが撃たれて泣きそうな顔してた奴のセリフか? それが。感情が素直に顔にでるオレを覗き込んだリューアが上にのしかかってくる。
「ちょ、もう無理だぞ」
本気で拒むと、口元がわずかに笑みの形に歪められた。嫌な予感がする。
「お前がしばらく私の側にいるのだ。嬉しくないわけがない」
言われて気づいたが、確かにこのケガで仕事は出来ない。表も裏も休業確実だった。そしてオレが動けないということは、コイツに好き勝手されるのと同意語だ。
「無理矢理したら逃げるぞ」
全力で逃げてやる。強い口調で宣言すると、なんでもない事のように微笑んだリューアが首筋にキスを落とした。それから当然のように唇も重なる。啄むキスが繰り返され、息も絶え絶えに押しのけた。
「問題ない。お前から欲しがればいい話だ」
「それはない」
「どうだろうな」
くすくす笑った後、リューアは身を起こして手を伸ばした。さっきの言葉が気になって、手を眺めるだけのオレに「シャワーを浴びるだろう?」と機嫌よく尋ねる。浴びる、というか……その胡散臭い笑顔が怖くて手を取れねえよ。
「今は、いい」
「そうか」
あっさり手を引っ込めるから、驚いて目で追ってしまった。鍛え上げた無駄のない身体が浴室に消えて、ほっと肩の力を抜いた。
ずきんと痛む右肩が楽になる体勢で寝転び、聞こえてくる水音にうとうとする。不用心だが怠い身体が求めるままに、眠りかけていた。
「リヴィ?」
耳に心地良い男の声に「ん」とかろうじて答える。しかし一度沈みかけた意識は容易に浮上せず、隣に滑り込む男の気配を感じた。質のいいスプリングが並ぶベッドは、隣の男の動きを感じさせないほど優秀だ。揺れがほとんど伝わらないため、意識はさらに沈んでいく。
「気づけば寝ている。本当に……」
猫みたいだと呟いたリューアの手が、するりと肌を滑る。後ろから背中にぴたりと張り付くように抱きしめられ、オレはそのまま眠った。
熱があるせいか、後ろの冷たい肌が心地良い。そう感じた自分に「絆されるな」と内心で呟いたのが最後の記憶だった。
「まだ足りないのか?」
わかってるくせに揶揄うリューアを、振り返りざま睨みつけた。「好きにしろ」と許可を出したのはお前だと笑う男へ、クッションをひとつ投げつける。絆された少し前の自分を盛大に罵りながら、ぼやいた。
「くそっ、尻が痛い」
「リヴィ……誘っているのか?」
「そんなわけあるか!」
空気を読むのが上手いというか、大企業のトップだから察するのが得意なのか。どちらにしろ、リューアはオレがマジ切れする前に、絶妙のタイミングで手を引く。腹立たしいくらい野良猫の扱いに長けた男だった。
髪を手櫛で梳くリューアのご機嫌麗しい表情に、嫌味のひとつでもと口を開く。
「随分と機嫌がいいけど。オレがケガしたのが、そんなに喜ばしいのかよ」
一瞬驚いた顔をしたくせに、すぐ表面を取り繕うあたりは、本当に凄いと感心した。企業家相手なら、もっと傲岸不遜に振る舞うんだろう。予想外のことを言い出す奴も少ないし、きっとオレみたいな例外の塊はコイツの周辺にいないタイプだ。
「そうだな、嬉しいぞ」
まさかの肯定に瞬きして絶句した。オレが撃たれて泣きそうな顔してた奴のセリフか? それが。感情が素直に顔にでるオレを覗き込んだリューアが上にのしかかってくる。
「ちょ、もう無理だぞ」
本気で拒むと、口元がわずかに笑みの形に歪められた。嫌な予感がする。
「お前がしばらく私の側にいるのだ。嬉しくないわけがない」
言われて気づいたが、確かにこのケガで仕事は出来ない。表も裏も休業確実だった。そしてオレが動けないということは、コイツに好き勝手されるのと同意語だ。
「無理矢理したら逃げるぞ」
全力で逃げてやる。強い口調で宣言すると、なんでもない事のように微笑んだリューアが首筋にキスを落とした。それから当然のように唇も重なる。啄むキスが繰り返され、息も絶え絶えに押しのけた。
「問題ない。お前から欲しがればいい話だ」
「それはない」
「どうだろうな」
くすくす笑った後、リューアは身を起こして手を伸ばした。さっきの言葉が気になって、手を眺めるだけのオレに「シャワーを浴びるだろう?」と機嫌よく尋ねる。浴びる、というか……その胡散臭い笑顔が怖くて手を取れねえよ。
「今は、いい」
「そうか」
あっさり手を引っ込めるから、驚いて目で追ってしまった。鍛え上げた無駄のない身体が浴室に消えて、ほっと肩の力を抜いた。
ずきんと痛む右肩が楽になる体勢で寝転び、聞こえてくる水音にうとうとする。不用心だが怠い身体が求めるままに、眠りかけていた。
「リヴィ?」
耳に心地良い男の声に「ん」とかろうじて答える。しかし一度沈みかけた意識は容易に浮上せず、隣に滑り込む男の気配を感じた。質のいいスプリングが並ぶベッドは、隣の男の動きを感じさせないほど優秀だ。揺れがほとんど伝わらないため、意識はさらに沈んでいく。
「気づけば寝ている。本当に……」
猫みたいだと呟いたリューアの手が、するりと肌を滑る。後ろから背中にぴたりと張り付くように抱きしめられ、オレはそのまま眠った。
熱があるせいか、後ろの冷たい肌が心地良い。そう感じた自分に「絆されるな」と内心で呟いたのが最後の記憶だった。
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