【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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2.オレの後見には、アイツが控えてるからな

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 スナイパー、狙撃手、殺し屋。呼び方は様々だが、この仕事は目立つことがご法度はっとだ。

 理想は一般的な特徴のない顔立ちの男だろう。しかし、このオレは擦れ違う人の視線を釘付けにする美貌の持ち主だった。

 呼ばれる名は―――ルーイ。

 艶のある金髪は肩を覆う長さで、軽く後ろで括るのが普段のスタイル。北方生まれだった母親譲りの色彩は、真っ白い肌と薄氷に似たアイス・グレーの瞳にも現れていた。

 銀色に見える瞳は大きく、笑みを浮べればキツい印象はない。鼻筋の通った顔立ちは、美人の範疇に余裕で入った。

 孤児だったので両親の記憶はない。色彩も顔立ちもそっくりな母親は、かなりの美人だったと聞いた。もっとも、街角で飲んだくれて潰れたジイさんの話なので、信憑性しんぴょうせいは薄い。

 繊細な……どちらかというと女性じみた顔はオレにとって、実はコンプレックスだった。女性に間違えられて告白されたり、ナンパされるのは日常茶飯事となれば、まあ当然の結果だろう。

 黒い服を身に着けるのは、単に好みだった。

 赤や青などの原色は似合うが故に、裏の仕事では身に着けない。どんな清楚なイメージの人間でも真赤のスーツを着れば、他人の捉え方は一変する。色が持つイメージに個性や意識が飲み込まれる為だった。

 他人の印象を操るには、色を上手に使いこなすのも武器になる。

 細身の肢体を黒で包み、シルバーのアクセサリーを着けた姿は地球では珍しくもないのに、どうしても目を引くのはしょうがない。足元に転がる浮浪者を器用に避けて歩く美人は、裏通りでは格好の獲物だった。だが、誰も手出しはしない。

 ゴミと人間が一緒に転がる風景は、スラム―――そう呼ぶに相応しい場所だった。



 
 離地暦201年。

 人類が地球を離れ、宇宙に生活の拠点を移した年を元年として数える。西暦などとっくに過去の物だった。

 貧富の差は広がり、金のある人間だけが宇宙での生活を手に入れているのが現状。残されるのはいつでも、金も力もない庶民だった。見捨てられた地球はスラム化し、資源を搾取された後の星へ豊かなセトからの支援は一切ない。美しかった惑星はあっという間に犯罪者の楽園となり下がった。

 どん底を味わった地球を救ったのが、ランクレー財閥の前総帥だ。もちろん財閥の利益になることが前提だったが、それでも地球にとって『放置よりマシ』だったのは言うまでもない。

 観光用に整えられた地区ならともかく、このあたりは見事にスラムの特色が色濃く出ていた。観光地の目の前でも、元スラムだから目つきの悪い連中がゴロゴロしている。

 地球はセトと違い、自らの身を守れなければどうなるか―――純粋培養じゅんすいばいようなセト育ちには想像も出来ないだろう。たまに紛れ込む愚かな旅行者が、路上で死体になって発見される事も少なくなかった。

 事実、いまオレの足元に転がっているのも旅行者の成れの果てだ。長い髪から女性だと推測されるが、肉の塊にしか見えない姿だった。装飾品や所持品は何もなく、もちろん洋服もない。辛うじて「人間だった」と判断できる程度の状態だ。

 表通りから1歩、本当に道を1本選び間違えただけで、治安の悪さは眉を顰めるほど悪くなった。

 売春に恐喝、レイプなんて当たり前。だが、見かけより波乱万丈な人生を送ってきたオレから見ればたいしたことはない。

 問答無用で殺されて身ぐるみ剥がれるのも珍しくないのだ。先ほどの死体然り、もっと酷くなれば生きたまま麻薬常習者に食い殺される事件まであった。

 管理されたセトでは考えられない事件も、地球では日常茶飯事だ。
 
 おまけにこの地域は、3年前に隕石の落下があり、他より治安の回復が遅れていた。

 華奢な体躯たいく見目麗みめうるわしい外見、高価なジュエリー付き……とくれば、この地区でルーイは最上級の獲物だろう。捕まえて売れば高値確実で、それ以前に性的に襲われる危険も高い。

 この時代、男も女も大した差はなかった。

 もっとも……それらに巻き込まれるほど、外見通りではないが……。

 ふと感じた背後の気配に、緊張感が全身を満たす。護身用の38口径を確認し、気配の主の出方を窺った。

「ちょっと待て!」

 案の定声を掛けられ、素早い動作で振り向く。それでもまだ銃は抜かなかった。冷たい視線を向けられた男は、肩を震わせて伸ばした手を止めた。

 てっきりスラム名物の強盗かと思ったが、制服を着ている姿から察するに公安関係らしい。制式銃を構えて用心深く近付く姿は、オレに言わせれば隙だらけで滑稽こっけいだった。

 ……新米か?

 修羅場しゅらば慣れしている捜査官なら、相手の状況を一瞬で見抜く。最初から銃口を突き付けて威嚇いかくする男は、自分の身を危険に晒している自覚はなさそうだった。

 闇社会で名をせるスナイパーは肩を竦めて、両手を上げる。震えている手を見れば、うっかり逆上させたらトリガーを引かれかねない。

 肩の高さに上げた両手に何も持っていないのを確認し、安心した捜査官が銃口を下ろした。本物だろうが……偽物は横行している世の中だ。

 用心深く距離を置いた。

「……アンタ、何?」

「公安だ」

 お決まりの黒革手帳を見せられ、中の認証番号を一瞬で暗記する。

 おそらく本物だろう。つい先ほど殺人があったビルの近くを、肩に大きなバッグを背負った目立つ青年が歩いていれば、呼び止めるのが当然だ。声を掛けられたオレは本物の犯人なのだが……真犯人逮捕は100%なかった。

 オレの後見には、アイツが控えてるからな。

 セトにいる保護者を思い出し、ずり落ちかけたバッグを背負い直した。教えてやる義務もないので、どうやって誤魔化そうかと考えながら男の出方を待つ。

 生臭い風が吹いて、無駄に長い金髪の先を揺らした。

「身分証の提示と、このような場所に居た説明を求める」

 職務に忠実、基本に従う真面目な捜査官だ。定番のセリフに肩を竦め、身分証を内ポケットから引っ張り出した。
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