上 下
97 / 137

97.裏を知らずにいたかった

しおりを挟む
 アンドルリーク国は、国王がいない。宰相や大臣と同じ立場の者が選出され、国主の代わりを務める国家だった。大陸中調べても、同じ仕組みの国はない。

 民が主流という意味で民主制と呼ばれてきた。数十年前までは、他国と同じように王がいる国家だった。国王の愚行が民の怒りを買い、叛逆されたと聞いている。その際に、二度と国王に支配されたくないと今の形が出来上がった。

 お祖父様の説明に頷く。我が国も、一歩間違えば同じだったかもしれない。貴族派が民を率いて叛逆すれば、国王派も王家も押し潰されただろう。その後、新しい王を立てようと考えたのは王政に慣れたフェリノスだからか。

 相応しい王が頂点に立てば、国は新しくやり直せる。そう考える方がしっくりくる。民が主導権を握る国家は、不安定な気がした。実際、アンドルリーク国は外交に注力する余裕がないほど、内政が混乱しているらしい。

 まだ貴族階級が存在するため、他国の貴族と婚姻を結んで一族ごと逃げ出す事例も多いのだとか。お父様も当初は、そう考えていた。アンドルリーク国の元貴族令嬢が、ドゥラン侯爵家に嫁いだだけ。財産や己の身を守るため、フェリノスへ逃げてきたのだと思った。

「今になれば、別の意図があったのか」

「じゃが、今のアンドルリークに戦の余裕はないはずだ」

 フェリノスを支配する旨みはない。それどころか自国内ですら混乱する今、領地や国民を増やすことは不安要素だった。にも関わらず、フェリノスへ入り込んだ理由……。

「王制の復活?」

 フェリノスをアンドルリークに併合するのではなく、この国を乗っ取って祖国に攻め込む。混乱の続くアンドルリークを侵略することで、再び王侯貴族が支配する王政に戻そうとしたなら?

「アリーチェは戦略家向きだな」

 似た結論に達したクラリーチェ様に褒められ、首を横に振る。こんな恐ろしい考え、浮かばない方がいい。だって、誰かが死んでも関係ないとする非道な考えだ。

「我が孫ながら、先読みに長けておる。ロベルディの血を強く受け継いだようじゃ」

 お祖父様はにやりと笑った。血筋のせいにしてしまえ、そう言われた気がする。ぎこちなく微笑み、小さく頷いた。

「どれ。ドゥラン家とやら、わしが捻り潰してやろう」

 目の前のやや冷めた珈琲を飲み干し、お祖父様は椅子から立ち上がる。フェルナン卿が「おやめください」と口を挟むも、逆に反論された。

「わしがここにおる、本国が空だぞ? さっさと戻れ」

 クラリーチェ様とフェルナン卿に、そう言い捨てた。まるで邪魔だと言わんばかりの態度で。その意味は、後は任せろ……かしら? 肩を竦めたクラリーチェ様は口角を持ち上げた。

「どうせ、ルクレツィアに代理権を与えたのだ。もう少し自由にさせてもらう」

 ルクレツィア様は、ロベルディの第二王女だった。国内貴族に嫁いだが、お相手は現在の宰相閣下で策略に長けておられると聞く。お母様のお姉様達は、どちらも優秀なのね。

「害虫はさっさと駆除するに限る」

 お祖父様はそっと私に手を差し伸べる。迷うことなく、私はその手を受けて立ち上がった。臆する理由はないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】【BL】嫉妬で狂っていく魔法使いヤンデレの話

ペーパーナイフ
BL
魔法使いのノエルには欲しい物が何もなかった。美しい容姿、金、権力、地位、魔力すべてが生まれ持って与えられていたからだ。 ある日友達に誘われてオーティファクトという美男美女が酒を振る舞う酒場へ足を運ぶ。その店で出会った異世界人の青年ヒビキに恋をした。 彼は不吉なこの黒い髪も、赤い瞳でさえも美しいと言ってくれた。ヒビキと出会って初めて、生きていて楽しいと思えた。俺はもう彼なしでは生きていけない。 素直で明るい彼にノエルはどんどんハマっていく。そしていつの間にか愛情は独占欲に変わっていった。 ヒビキが別の男と付き合うことを知りノエルは禁断の黒魔術を使ってしまうが…。 だんだん狂っていくヤンデレ攻め視点の話です。2万文字程度の短編(全12話ぐらい) 注意⚠ 最後に性描写あり(妊娠リバなし本番) メリバです

婚儀で夫の婚約者を名乗るレディに平手打ちを食らうスキャンダルを提供したのは、間違いなく私です~私を嫌う夫に離縁宣告されるまで妻を満喫します~

ぽんた
恋愛
小国の王女であるがゆえに幼少より人質同然として諸国をたらいまわしされているエリ・サンダーソン。今回、彼女はフォード王国の王家の命により、スタンリー・レッドフォード公爵に嫁ぐことになった。その婚儀中、乱入してきたスタンリーの婚約者を名乗る美貌のレディに平手打ちを食らわされる。どうやらスタンリーは彼女を愛しているらしい。しばらくすると、エリは彼に離縁され、彼は元婚約者を妻にするらしい。 婚儀中に立った離縁フラグ。エリは、覚悟を決める。「それならそれで、いまこのときを楽しもう」と。そして、離縁決定の愛のない夫婦生活が始まる……。 ※ハッピーエンド確約。「間違いなく私」シリーズ(勝手に命名)です。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。 急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。 間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。 元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。 愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。 また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】6夫の上司の家政婦をすることになった妻の運命が変わっていく。

華蓮
恋愛
主人の上司に家政婦をしに行ったかりん。そこから、かりんの運命が変わっていく、、、 ☆マークはR18です。 登場人物 東條かりん 東條陸    かりん夫 東條定夫   かりん父     東條商事 東條裕子   かりん母 東條薫    かりん兄 青山晴翔   陸の上司 松本ミカ   陸の浮気相手   湘南会社 春木華奈   薫の彼女 安達優樹   Adachiの社長

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸
恋愛
エミリアの婚約者、クロードはいつも彼女に冷たい。 それでもクロードを慕って尽くしていたエミリアだが、クロードが男爵令嬢のミアと親しくなり始めたことで、気持ちが離れていく。 エミリアはクロードとの婚約を解消して、新しい人生を歩みたいと考える。しかし、クロードに別れを告げた途端、彼は今までと打って変わってエミリアに構うようになり…… ◆エール、ブクマ等ありがとうございます! ◆小説家になろうにも投稿しております

処理中です...