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92.執行直後の乱入者
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壇上へ向けて走ったカサンドラは、きっと私を狙ったのだろう。受け止めたお父様の立ち位置がそれを物語っていた。しかし誰を狙ったか、は問題ではない。
狙った先に誰がいたのか、それこそが命運を分けた。ロベルディの女王クラリーチェ陛下、姪の私、この国の公爵であるフロレンティーノ家当主マウリシオ。フェルナン卿も騎士ではあるが、ロベルディの公爵家の出身だ。
重鎮の集まる壇上へ駆け上がり、武器になる装飾品を振り翳した。このフェリノス国がロベルディに吸収された今、叛逆行為だった。許されざる罪を犯した自覚がないのか、フェルナン卿の剣を見て青ざめる。
「我が君、剣の変更は認められますか」
「構わん、好きにせよ」
フェルナン卿は合図を出した。壁際に控える騎士が駆け寄り、ほんのりと赤い鞘ごと差し出す。一度抜いた銀の剣を納めたフェルナン卿は、赤い鞘を払った。耳を塞ぎたくなる雑音が響き、眉を寄せる。
今の不快な音は何? じっと見つめる先で、赤みを帯びた剣を確認したフェルナン卿がカサンドラに近づいた。暴れる彼女を、周囲の騎士がしっかりと押さえる。縛るための縄は用意されていない。
猿轡もしていないので、叫ぶ声が広間に響き渡った。私は悪くない、その女が元凶だ、こんなの間違っている、尊い血筋なのよ。何とかして逃れようと身を捩るも、今度こそ騎士達も逃すわけにいかない。すでに一度失態を犯した。
油断した罪に、新たな失態を重ねる気はなかった。罰は甘んじて受ける。覚悟を決めた騎士達は、カサンドラのスカートが捲れようと髪を振り乱そうと、拘束を緩めなかった。切り落とすのは腕だ。両腕をそれぞれに固定して差し出した。
「嫌よ、こんなのおかし……あ゛あぁぁああ!」
喚く途中で、赤い刃が無造作に振り下ろされた。まず左手首、それから右手首。振り下ろした一撃と、逆に振り上げた刃がそれぞれに役割を果たす。ばっと血が噴き出した。
「執行を見届けた、連れ出せ」
クラリーチェ様の命令に、手首を落とされたカサンドラは退場する。止血の意味もあり、強く手首を圧迫した騎士に引き摺られ、己の足で歩くことなく。絨毯を染めた血が、ぬらぬらと光を弾いた。何とも言えない独特な臭いが広がる。
「さて……」
続けようと口にする直前、クラリーチェ様はさっと立ち上がった。隣に座る私は驚いて見上げる。両手を長椅子に突いた私の手元から、重い扇が転がった。
「お下がりください」
まだ階段下にいたフェルナン卿が警告を発した。錆で赤い剣を投げ捨て、腰の剣に手を触れる。伯母様の許可がないので、すぐに抜かなかった。緊急時なら構わないはずだけれど。
大扉に視線が集中する。ばたばたと人の足音が慌ただしく聞こえ、何か叫んでいる声も混じった。お兄様が向かった刑場で、事件でも起きたのでは?
扇を拾い、姿勢を正した私も立ち上がった。もし緊急の案件なら、動ける姿勢でいる方が……!
割れんばかりの乱暴な開け方で扉が左右に飛び、蝶番が悲鳴を上げる。ギリギリで持ち堪えた扉は、勢いそのまま閉まろうとした。それを乱暴に蹴破るのは、小柄な初老の男性だ。白髪が交じっているのだろう。元から銀色なのか、灰色に見えた。
狙った先に誰がいたのか、それこそが命運を分けた。ロベルディの女王クラリーチェ陛下、姪の私、この国の公爵であるフロレンティーノ家当主マウリシオ。フェルナン卿も騎士ではあるが、ロベルディの公爵家の出身だ。
重鎮の集まる壇上へ駆け上がり、武器になる装飾品を振り翳した。このフェリノス国がロベルディに吸収された今、叛逆行為だった。許されざる罪を犯した自覚がないのか、フェルナン卿の剣を見て青ざめる。
「我が君、剣の変更は認められますか」
「構わん、好きにせよ」
フェルナン卿は合図を出した。壁際に控える騎士が駆け寄り、ほんのりと赤い鞘ごと差し出す。一度抜いた銀の剣を納めたフェルナン卿は、赤い鞘を払った。耳を塞ぎたくなる雑音が響き、眉を寄せる。
今の不快な音は何? じっと見つめる先で、赤みを帯びた剣を確認したフェルナン卿がカサンドラに近づいた。暴れる彼女を、周囲の騎士がしっかりと押さえる。縛るための縄は用意されていない。
猿轡もしていないので、叫ぶ声が広間に響き渡った。私は悪くない、その女が元凶だ、こんなの間違っている、尊い血筋なのよ。何とかして逃れようと身を捩るも、今度こそ騎士達も逃すわけにいかない。すでに一度失態を犯した。
油断した罪に、新たな失態を重ねる気はなかった。罰は甘んじて受ける。覚悟を決めた騎士達は、カサンドラのスカートが捲れようと髪を振り乱そうと、拘束を緩めなかった。切り落とすのは腕だ。両腕をそれぞれに固定して差し出した。
「嫌よ、こんなのおかし……あ゛あぁぁああ!」
喚く途中で、赤い刃が無造作に振り下ろされた。まず左手首、それから右手首。振り下ろした一撃と、逆に振り上げた刃がそれぞれに役割を果たす。ばっと血が噴き出した。
「執行を見届けた、連れ出せ」
クラリーチェ様の命令に、手首を落とされたカサンドラは退場する。止血の意味もあり、強く手首を圧迫した騎士に引き摺られ、己の足で歩くことなく。絨毯を染めた血が、ぬらぬらと光を弾いた。何とも言えない独特な臭いが広がる。
「さて……」
続けようと口にする直前、クラリーチェ様はさっと立ち上がった。隣に座る私は驚いて見上げる。両手を長椅子に突いた私の手元から、重い扇が転がった。
「お下がりください」
まだ階段下にいたフェルナン卿が警告を発した。錆で赤い剣を投げ捨て、腰の剣に手を触れる。伯母様の許可がないので、すぐに抜かなかった。緊急時なら構わないはずだけれど。
大扉に視線が集中する。ばたばたと人の足音が慌ただしく聞こえ、何か叫んでいる声も混じった。お兄様が向かった刑場で、事件でも起きたのでは?
扇を拾い、姿勢を正した私も立ち上がった。もし緊急の案件なら、動ける姿勢でいる方が……!
割れんばかりの乱暴な開け方で扉が左右に飛び、蝶番が悲鳴を上げる。ギリギリで持ち堪えた扉は、勢いそのまま閉まろうとした。それを乱暴に蹴破るのは、小柄な初老の男性だ。白髪が交じっているのだろう。元から銀色なのか、灰色に見えた。
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