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78.一度に裁ききれないので分割しました
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罪が多過ぎて、この場で一度に裁けない。それが女王陛下の決断だった。王宮内の幽閉用の塔へ入れ、回復したら次の罪を裁く。それを繰り返すと宣言した。この場で反対する貴族はいない。一歩間違えば国が消滅する危機だったのだから。
「婚約者への暴行や婚約破棄に伴う毒殺未遂は、ロベルディ王族への侮辱と暗殺に該当する。これは死罪だったな。先に他の罪を償ってもらおう。子爵令嬢を襲撃するよう指示した件は、この者が愛する女に対して罰を与えよう」
まだ痛みに呻いて何も言えないフリアンを気にする様子は、クラリーチェ様にない。ブエノ子爵が一歩進み出て、静かに頭を下げた。娘を殺された怒りと悲しみを乗り越えようとする彼に対し、最大限の配慮を見せた形だろう。この男の命を奪うのは最後、それまで悲しみを抱えて生きよと命じたのだ。
生き甲斐があれば、ブエノ子爵も立ち直れる。そう考えたのかしら。
「まだ横領やライサネン王国への干渉の罰もある」
ライサネン王国は砂漠の国だ。あちらでは神に人を生贄として捧げる風習が残っていた。人の眼球や心臓は、生贄の儀式が残る国にとって価値が高い。それが罪人でも同じだった。いずれはバラバラにして売られ、賠償金になるかもしれない。そう気づいても、一切の同情はなかった。
横領されたお金は民が必死に働いて納めた税よ。それを正当に振り分けられた目的に使わず、自分の享楽のために掠め取るだなんて、最低の執政者だった。いいえ、執政者ではなくただの泥棒だわ。
「これは下げよ」
人扱いしない女王陛下の指示で、フリアンは幽閉の塔へ連れていかれる。かつての整った顔は見る影もない。そのくらいしか取り柄がないのに。
「次はどれだ?」
「オレガリオ、にいたしましょうか」
フェルナン卿がお伺いを立て、女王の顔で伯母様が頷く。引きずられて来た元国王は、破れた服を纏う酷い状態だった。運んできた騎士達の制服に皺があるのは、格闘した証みたい。引っ張って皺を伸ばし、姿勢を正して女王陛下に挨拶をする。その足元に転がるのは、両手両足を縛られた芋虫だった。
蓄えた立派な髭は絡まり、やや白髪まじりの金髪は艶もない。ぼさぼさの髪に真っ赤な顔、高価そうな服は破れてボロ布だ。これを見て、元国王だと思う人はいないでしょうね。猿轡を噛みしめ唸る姿は、野良犬のようだった。
「ふむ、これは罪を自覚させたら持ち帰ろう」
思わぬ発言に、貴族派が首を傾げる。しかしお父様は眉を寄せ、声をかけた。
「先王陛下への土産、でしょうか?」
「近いが、少し違うぞ。これは父上への褒美だ。私に出し抜かれたとはいえ、大人しく国を守ってくれている。あの父上がだぞ? 褒美のひとつも用意せねば、どこかの国が滅ぼされかねん」
思ったより切実な理由でした。お父様は納得した様子で大きく頷いています。覚えておりませんが、お祖父様はそんなに危険な方なのでしょうか。
「私が帰国すれば、もう止められない。すぐにアリーチェの元へ向かうだろう。それを遅らせるための生贄とも言えるが」
クラリーチェ様は苦笑いして、繋いだ手にもう片方の手を重ねた。私の手の甲を撫でながら、そっと秘策をひとつ。
「父上はアリッシアの涙に弱かった。危険を感じたら泣き落としが効くぞ」
ふっと笑う伯母様に、私は破顔した。
「ええ、ぜひ使わせていただきますわ」
「婚約者への暴行や婚約破棄に伴う毒殺未遂は、ロベルディ王族への侮辱と暗殺に該当する。これは死罪だったな。先に他の罪を償ってもらおう。子爵令嬢を襲撃するよう指示した件は、この者が愛する女に対して罰を与えよう」
まだ痛みに呻いて何も言えないフリアンを気にする様子は、クラリーチェ様にない。ブエノ子爵が一歩進み出て、静かに頭を下げた。娘を殺された怒りと悲しみを乗り越えようとする彼に対し、最大限の配慮を見せた形だろう。この男の命を奪うのは最後、それまで悲しみを抱えて生きよと命じたのだ。
生き甲斐があれば、ブエノ子爵も立ち直れる。そう考えたのかしら。
「まだ横領やライサネン王国への干渉の罰もある」
ライサネン王国は砂漠の国だ。あちらでは神に人を生贄として捧げる風習が残っていた。人の眼球や心臓は、生贄の儀式が残る国にとって価値が高い。それが罪人でも同じだった。いずれはバラバラにして売られ、賠償金になるかもしれない。そう気づいても、一切の同情はなかった。
横領されたお金は民が必死に働いて納めた税よ。それを正当に振り分けられた目的に使わず、自分の享楽のために掠め取るだなんて、最低の執政者だった。いいえ、執政者ではなくただの泥棒だわ。
「これは下げよ」
人扱いしない女王陛下の指示で、フリアンは幽閉の塔へ連れていかれる。かつての整った顔は見る影もない。そのくらいしか取り柄がないのに。
「次はどれだ?」
「オレガリオ、にいたしましょうか」
フェルナン卿がお伺いを立て、女王の顔で伯母様が頷く。引きずられて来た元国王は、破れた服を纏う酷い状態だった。運んできた騎士達の制服に皺があるのは、格闘した証みたい。引っ張って皺を伸ばし、姿勢を正して女王陛下に挨拶をする。その足元に転がるのは、両手両足を縛られた芋虫だった。
蓄えた立派な髭は絡まり、やや白髪まじりの金髪は艶もない。ぼさぼさの髪に真っ赤な顔、高価そうな服は破れてボロ布だ。これを見て、元国王だと思う人はいないでしょうね。猿轡を噛みしめ唸る姿は、野良犬のようだった。
「ふむ、これは罪を自覚させたら持ち帰ろう」
思わぬ発言に、貴族派が首を傾げる。しかしお父様は眉を寄せ、声をかけた。
「先王陛下への土産、でしょうか?」
「近いが、少し違うぞ。これは父上への褒美だ。私に出し抜かれたとはいえ、大人しく国を守ってくれている。あの父上がだぞ? 褒美のひとつも用意せねば、どこかの国が滅ぼされかねん」
思ったより切実な理由でした。お父様は納得した様子で大きく頷いています。覚えておりませんが、お祖父様はそんなに危険な方なのでしょうか。
「私が帰国すれば、もう止められない。すぐにアリーチェの元へ向かうだろう。それを遅らせるための生贄とも言えるが」
クラリーチェ様は苦笑いして、繋いだ手にもう片方の手を重ねた。私の手の甲を撫でながら、そっと秘策をひとつ。
「父上はアリッシアの涙に弱かった。危険を感じたら泣き落としが効くぞ」
ふっと笑う伯母様に、私は破顔した。
「ええ、ぜひ使わせていただきますわ」
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