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77.罪が多過ぎて一度に償えないほど

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 聞き苦しい悲鳴と大量の血飛沫が、謁見の間を彩った。貴族の半数が顔を歪めて我慢し、残る半分は我慢できずに目を閉じて耳を塞ぐ。叩き潰して鈍い刃を突き立て、鋭い刃で落とした。表現すれば大した作業ではない。けれど、担当した騎士は青褪めていた。

「そこの騎士に褒美を取らせる。休んで良し」

 お父様の言葉で、フロレンティーノ公爵家の制服を着た騎士は下がった。踵を揃えて敬礼し、くるりと背を向ける。そのまま立ち去る足元はふらついておらず、衝撃は受けたが倒れるほどではない証拠だった。男性同士だとあの痛みは想像を絶するようで、お兄様も顔色が白っぽい。血の気が引いたようだ。

 泣きながらの嘆願で許しを請うたが、フリアンが許される未来はない。母である王妃様は平然と顔を上げているし、妹パストラ様は目を逸らしたものの俯かなかった。お二人には王族としての覚悟があるのね。人の上に立つ以上、望まない決断をすることもある。その厳しさを理解しているのだろう。

 私はといえば、さほど衝撃はなかった。布で隠された肉体の一部が切り落とされても潰されても、当然の報いとしか感じない。薄情なのかしら。ちらりと隣の伯母様を窺えば、どうした? と笑顔で首を傾げる。もしかして私、豪胆な伯母様に似たのかもしれない。

「打ちひしがれているようだが、まだ罰は終わっておらぬぞ」

 クラリーチェ様の声は淡々としており、貴族達は慌てて居住まいを正した。動揺を隠す彼らの視線が、フリアンに注がれる。続いて女王陛下に顔を向けた。

「幸いにして、お前はまだ若い。傷を癒し、また次の罰を受けるがよかろうよ」

 ぞくっとした。死刑宣告より残酷だけれど、法に則って裁きを下すなら間違っていない。離宮予算の横領、私への毒殺教唆、婚約破棄と暴行。噂は大目に見たとしても、ブエノ子爵令嬢の殺害に関与しているならその罰は必須だ。今回裁いた分は女遊びのツケ、せいぜいがカサンドラと伯爵令嬢の話だけ。

 他国への内政干渉と国交断絶に至った罪、外患誘致の罪も残っていた。

「クラリーチェ様、罪が多過ぎてもたないのでは?」

「最後までもたせるのが力量だ。我が国には人体に詳しい専門の部署がある」

 言葉を濁しているけれど、拷問や暗殺に長けた人達のこと? それなら安心ね。だって、簡単に死んで終わりなんて狡い。国を転覆させるほど引っ掻き回し、好き勝手した結果はこの程度の痛みでは償い切れなかった。

 お父様はじっと私を見て、安堵した表情になる。傷ついて「もういいです、やめて」と泣く想像でもなさったのかしら。そんなに子どもではありません。国を傾ければ、他国の侵略を受ける。傷つくのは自分ではなく、戦禍に巻き込まれる民なのです。多くの人々の命運を弄んだ罪は、じっくり味わっていただきましょう。

「リチェが元気そうでよかった」

 的外れな兄は、場違いな笑みを浮かべた。この人もお父様も、私も……ある意味壊れている。それが不思議と嫌ではなくて、繋いだクラリーチェ様の手を握り返しながら微笑み返した。

 この国をきれいに掃除して、民が暮らしやすい領地にする。それが伯母様のお役に立つよう、管理するくらいはお手伝いしてもいいわ。覚えていない母親の温もりに縋るように、私は目を閉じて口角を持ち上げた。
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