50 / 137
50.王宮の隠し通路をすべて晒す
しおりを挟む
再び私の命が狙われた。やや大袈裟にそう告げて俯くと、王妃様は目を見開いて固まる。パストラ様の手にあるカップが傾いて……溢れる直前に侍女が支えた。慌ててソーサーへ戻される。
「なんて愚かなの……私は……アリッシア様になんてお詫びしたら」
王妃様はきゅっと眉根を寄せ、険しい表情で嘆いた。この国の王妃になるため嫁いだけれど、生まれた国は隣国ロベルディだ。このフェリノスで地位が逆転しても、王妃カロリーナ様にとって母は王女だった。
「隠し通路が使われたのですね? でしたら、すべて公開いたします。どうせもう……この王宮は、近くお役御免になるでしょうから」
フェリノス国の王家は終わり。現王妃のカロリーナ様が言い切った言葉は、そのまま未来を示していた。ここまで貴族が離反し、王族の起こした事件を調べている。どう取り繕ったところで、隠しきれない状況だった。
「私もいくつか存じております。お母様、後宮や本宮の通路も公開しましょう。私達は何も困りませんもの」
王女パストラ様は穏やかな笑みを浮かべて、母を促す。すぐに王宮の見取り図が用意された。普段は秘密書類として、表に出されない。侵入者対策であり、同時に権威の象徴でもあった。
平面図は、各階ごとに丁寧に描かれていた。各階の位置を正確に把握するため、階段が目印になる。その位置を重ねれば、上下階の状況が理解できるよう、同じ縮尺で作成されていた。
「ここ、それからここにも扉があるわ」
「こちらに繋がっているの」
お二人の協力で、王宮の隠し通路や扉の位置が明かされていく。その数は想像より多かった。
「この辺は古すぎて扉が開かないと思うわ。四世代以上前の仕掛けなの」
いくつかは古過ぎて利用できないとバツ印がつけられた。それでも調査と確認のため、すべてを地図に書き足していく。この調査が始まって、テーブルのお茶はすべて片付けられた。
代わりに用意されたのは、大きな紙と文官達だ。絵の心得がある数人が、地図を模写し始めた。手分けして回るなら、同じ地図が複数必要だもの。エリサリデ侯爵の指示で、次々と書き足された。
「昨夜の侵入がこの部屋なら、繋がっているのは……この辺りね」
王妃様の指が、すっと本宮の一角を示した。地図上は物置になっている。だが、小さな物置が複数並ぶ不思議な間取りだった。
「ここの物置はすべて、外へ通じているわ。離宮だったり後宮、一番遠いものは隣の森へ出られるはず」
逃げるための通路と考えて間違いない。知られていないことを利用して、侵入経路にしたのなら……。
「目的は何かしら。私の殺害? でも、いま何かあれば王家が疑われるのに」
自分達が疑われると確実な状況で、わざわざ私の命を狙う理由が分からない。そう呟いた私に、お父様が首を横に振った。
「狙われたのは、アリーチェではない。俺だろう」
確信を滲ませたお父様の声に、エリサリデ侯爵が「なんて愚かな」と呻き声を漏らす。本当にその通り、私やお父様を殺しても流れはもう止まらないわ。
「なんて愚かなの……私は……アリッシア様になんてお詫びしたら」
王妃様はきゅっと眉根を寄せ、険しい表情で嘆いた。この国の王妃になるため嫁いだけれど、生まれた国は隣国ロベルディだ。このフェリノスで地位が逆転しても、王妃カロリーナ様にとって母は王女だった。
「隠し通路が使われたのですね? でしたら、すべて公開いたします。どうせもう……この王宮は、近くお役御免になるでしょうから」
フェリノス国の王家は終わり。現王妃のカロリーナ様が言い切った言葉は、そのまま未来を示していた。ここまで貴族が離反し、王族の起こした事件を調べている。どう取り繕ったところで、隠しきれない状況だった。
「私もいくつか存じております。お母様、後宮や本宮の通路も公開しましょう。私達は何も困りませんもの」
王女パストラ様は穏やかな笑みを浮かべて、母を促す。すぐに王宮の見取り図が用意された。普段は秘密書類として、表に出されない。侵入者対策であり、同時に権威の象徴でもあった。
平面図は、各階ごとに丁寧に描かれていた。各階の位置を正確に把握するため、階段が目印になる。その位置を重ねれば、上下階の状況が理解できるよう、同じ縮尺で作成されていた。
「ここ、それからここにも扉があるわ」
「こちらに繋がっているの」
お二人の協力で、王宮の隠し通路や扉の位置が明かされていく。その数は想像より多かった。
「この辺は古すぎて扉が開かないと思うわ。四世代以上前の仕掛けなの」
いくつかは古過ぎて利用できないとバツ印がつけられた。それでも調査と確認のため、すべてを地図に書き足していく。この調査が始まって、テーブルのお茶はすべて片付けられた。
代わりに用意されたのは、大きな紙と文官達だ。絵の心得がある数人が、地図を模写し始めた。手分けして回るなら、同じ地図が複数必要だもの。エリサリデ侯爵の指示で、次々と書き足された。
「昨夜の侵入がこの部屋なら、繋がっているのは……この辺りね」
王妃様の指が、すっと本宮の一角を示した。地図上は物置になっている。だが、小さな物置が複数並ぶ不思議な間取りだった。
「ここの物置はすべて、外へ通じているわ。離宮だったり後宮、一番遠いものは隣の森へ出られるはず」
逃げるための通路と考えて間違いない。知られていないことを利用して、侵入経路にしたのなら……。
「目的は何かしら。私の殺害? でも、いま何かあれば王家が疑われるのに」
自分達が疑われると確実な状況で、わざわざ私の命を狙う理由が分からない。そう呟いた私に、お父様が首を横に振った。
「狙われたのは、アリーチェではない。俺だろう」
確信を滲ませたお父様の声に、エリサリデ侯爵が「なんて愚かな」と呻き声を漏らす。本当にその通り、私やお父様を殺しても流れはもう止まらないわ。
390
お気に入りに追加
3,312
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる