上 下
49 / 137

49.離宮の秘密も含めて丸裸にしてあげるわ

しおりを挟む
※昨日、間違えて別作品の話をUPしました。ご指摘いただきました皆様、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ 不注意な作者なので、とても助かります。
*********************





 早朝から調査が始まった。離宮の管理責任者であるエリサリデ侯爵は、申し訳ないと謝りに訪れる。その肩を叩いて、父は結果を出すことを求めた。頭を下げるのも重要だけれど、犯人探しや侵入ルート特定はもっと大切だもの。

 侯爵を責める言葉より、彼のやる気を高めて送り出す方が有意義だった。フロレンティーノ公爵家に宛がわれた部屋は三室だ。中央が私、私の部屋から廊下を正面に見て右隣はお父様、左側がお兄様に用意された。二人の間に私がいるのは、守るためだと思う。

 中央の部屋の真下は、噴水に繋がるレンガが敷かれた広場である。窓から出入りする人影が一番目立つのに、窓が開いてカーテンが揺れていた。真っ先に疑われたのは窓からの出入りだった。赤い百合を持ち込んだ犯人の姿を見た者はいない。

 お父様の部屋へ入った人影は、廊下の護衛騎士に姿を見られていない。カーテンは揺れたが、その後、悲鳴を聞いて駆け付けたお父様達により窓の施錠は確認された。テラスへ出るガラス扉は施錠されたまま。となれば、何らかの隠し扉や通路があるはず。

 十人ほどの騎士が集められ、各家の当主も心配そうに集まった。

「これが目的かもしれんな。皆は仕事に戻ってくれ」

 お父様の言葉に、はっとした表情の貴族は散った。それぞれの仕事に戻るためだ。騒ぎを起こして、こちらに視線と注意を逸らす目的なら。私が直接危害を加えられなかった理由として、納得できる。この騒ぎで追及の緩んだ隙に、証拠隠滅を図る恐れがあった。

 横領や殺人未遂、王家の横暴な振る舞い、数えきれない罪状を追求する貴族派は、大急ぎで担当する現場へ向かう。彼らの退室を待って、再び騎士達の捜索を見守った。部屋の家具も可能な限り移動させて確認していく。

 どこかに抜け道はないか。落し物がないか。丁寧に確認し、何かを発見するたびに確認をした。面倒で長い時間を経て、先に結論が出たのはお父様の部屋だ。カーテンを集めた隅、壁際を調べていた騎士が隙間を発見した。そこを開けるため、二人の騎士がかかりっきりで壁や床を撫でまわす。

「アリーチェ、カリストの部屋で待っているか?」

 気を遣うお父様に首を横に振った。カリストお兄様は、失礼と断りを入れて隠し扉のありそうな壁に駆け寄る。なかなか発見されないので苛々したのかしら。

「この場で待ちますわ」

「でしたら、椅子をご用意させます。まだ体調が回復しておられないでしょう」

 エリサリデ侯爵の気遣いで、長椅子がひとつ運ばれた。そっと端に腰掛けて、サーラに手を伸ばす。首を傾げる彼女から、トランクを受け取った。侍女だから隣に座るわけにいかない。ならば、重い荷物は私が預かればいいのよ。目配せで意味を察したのか、彼女は一礼した。

「見つけました!!」

 お兄様の隣にいた騎士が声を上げる。人の視線がそちらへ集まった。カーテンを持ち上げて見えるよう支えるのは、我が家が連れてきた侍従だ。その横にぽっかりと黒い穴が開いていた。ここが侵入口で間違いないでしょう。何しろ、あの場所でカーテンを揺らして消えたのだから。

「塞ぐ方法を考えなくては……」

 エリサリデ侯爵が眉を寄せる。お兄様の提案で、この通路の出口を探ることになった。大急ぎで侍従が駆け回り、灯りを用意する。率先して先頭を切ろうとする兄に、騎士達が首を横に振った。小公爵であるカリストお兄様に何かあったら大変だもの、当然だわ。

 多少のやり取りがあり、お兄様は二番手を勝ち取った。言い包めたという方が正しいかも。興味はあるけれど、私が入るのは絶対に許可が下りないわね。すぐ脇に立つお父様を見上げた。お兄様が入る時点で、すでに眉間が寄っている。

 騎士が四人とお兄様、灯りを持つ侍従。合計六人で、隠し通路の探索が決まった。ひらりと手を振って入っていく兄は、楽しそう。あちらは任せて……そろそろ私にも仕事が届きそう。

「フロレンティーノ公爵令嬢様に、後宮より手紙が届いております」

 運んできた侍従からサーラが受け取り、取り上げたお父様が裏返す。封蝋を確認して、私に渡った。王妃様の封蝋が施された手紙は、ふわりと甘い香りがする。昨日出したお手紙の返事を読み、待っているお父様に回した。

「エリサリデ侯爵、王妃様とペストラ様がおいでになるわ。どこか部屋を用意していただけるかしら」

 にっこり笑って、客間を要求した。折角だもの。昨夜の事件も含めて、王族の情報を丸裸にして差し上げましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

処理中です...