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29.手がかりを求めて

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 アルベルダ伯爵令嬢の熱が下がったのは、翌日のお昼だった。朝は大事をとって部屋で過ごしてもらう。その間、私とサーラは黒い箱探しに躍起になった。

 簡単に見つかると思ったのに、サーラは見た記憶はあるが管理していないと答えたのだ。おまじないなら、自分だけが知る場所に片付けた可能性が高い。ベッドの下や、鍵のかかった引き出しの中も確認した。黒い箱にこだわらず、日記帳も対象にする。

 黒い箱に手紙を入れると聞いたから、別の色をした箱の可能性もあった。捜索対象が複数になったけれど、サーラは「仕方ありません。記憶がないのですから」と笑って協力してくれる。有難いわ。手伝ってもらったお礼を考えておこう。

 寝室を探し尽くし、続き部屋の書斎を兼ねたリビングに取り掛かった。続き部屋といっても、間に扉や壁は存在しない。本来二部屋だったのを変更して、開放的に改築されていた。書斎になった側は、廊下に繋がる扉のみ。逆に寝室からは水回りと衣装部屋の扉がある。

 日記や手紙なら書斎の可能性が高いと、二人で本を引っ張り出しては戻す作業を繰り返した。貴族らしく天井まで本を詰め込んだ書棚は、探し物をするには最悪だった。ほとんどは飾りだと思ったのに、きちんとした本が並んでいる。上の棚はサーラが脚立で確認した。

 さすがにその高さは、毎日記す日記を隠すには向いていない。手に取りやすい高さ、または下で目に留まらない位置かしら。

「見つかりませんでした」

「ありがとう、気をつけてね」

 降りるサーラに声をかける。侍女服のスカートは膝下まであり、踏みそうで怖かった。その懸念が当たり、彼女が足を滑らせる。

「きゃぁ!」

「サーラ!」

 慌てて脚立の下でサーラを支えた。彼女自身も前に体を押し付け、バランスを取った。落下せず済んだことに、ほっとする。脚立を書棚側に押し付けたので、下段の本が崩れていた。踏まないようにサーラを誘導する。

「お嬢様、お怪我はありませんか?」

「ええ」

「ありがとうございます」

 いいえと首を横に振った私は、奇妙な本に気づいた。周囲の本がすべて開いて落ちたのに、その本だけ閉じている。でも、背表紙で立っているのだ。背表紙を下に、本が開くはずなのに?

 拾って、本の形をした木箱だと気づいた。開け方が分からない。振ってみると音がするので、中身はあるようだ。重さはさほどでもなかった。

「これ、どうやって開けるのかしら」

「お借りします」

 受け取ったサーラは首を傾げながら、いじり始める。表紙や背表紙は黒く塗られ、白い字で詩集の名が書かれていた。一見すると本にしか見えない。期待する私の耳に、カタンと音がした。

「開きました」

「すごいわ、ありがとう」

 返された木箱は、黒い表紙が蓋になって開く。仕掛けは後で教えてもらうとして、まずは中身だ。すべて封筒だった。重くないと感じたのは、日記が入っていないからだろう。

「日記じゃないわね」

 ガッカリしながら手紙を裏返し、私は目を見開いた。王太子の名前が記された封筒だ。家名や地位はなく、ただ「フリアン」とだけ。中身を確認せず、二通目を裏返す。

 アルベルダ伯爵令嬢イネス、ブエノ子爵令嬢リディアが続いた。十通ほどの手紙の下に、無記名の封筒がある。触れようとした指先が、きゅっと丸まった。怖い、嫌だ。反射的にそう感じる。

「お父様と開けることにするわ。先に日記を探しましょう」

 一時保留として、テーブルの上に木箱を置く。色もデザインも不明の日記探しは苦戦し、結局その日は発見することができなかった。
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