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07.お見舞いと謝罪の並ぶ手紙

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 緊張しながら、サーラの差し出したペーパーナイフを当てる。ピンクの花模様が入った封筒は、アルベルダ伯爵家の紋章らしき透かしが入っていた。開封して、ごくりと喉を鳴らす。緊張で手が震えた。

「お嬢様」

 大丈夫ですか? そんな心配の代わりに掛けられた声に、緊張が解れた。大丈夫、泣いたって倒れたって、隣にはサーラがいるから。気持ちを固めて、深呼吸する。頷いて、封筒から手紙を取り出した。封筒と同じ花柄のカードが入っている。

 二つ折りで、折り目に金の房が飾られていた。開いたカードには、お見舞いの言葉が並ぶ。それからお詫びの一言「信じてあげられなくてごめんなさい」と。署名で締めくくられたカードを、そっと閉じた。

 父、兄、伯爵令嬢。皆が私に謝るなら、何か事件があったのね。そこで私は傷つけられた。だから大柄な男性が怖くて、紅茶に口をつけられなくて、皆が謝罪する。あんなに痩せ細るほど眠り続けたのも、精神的な傷のせいかしら。

 封筒の中にカードを戻し、オレンジのラインが入った封筒を開けた。先ほどより手が震えない。怖い文面がなかったからだ。また謝罪が書かれたお見舞いの内容だった。ブエノ子爵令嬢はほんのり香りのついた便箋を使い、外側の一枚は白紙のまま。

 頭の中に、貴族令嬢がよく行う作法の一つだと浮かぶ。手紙を書いた便箋にもう一枚白紙をつけて送る習慣があった。相手を敬っていたり、丁寧さを示す指標だった。謝罪の手紙だから白紙を付けたのか……それとも別の意図が? 気になって透かしたが、文字が書かれた様子はなかった。

 そんな仕草を当たり前にしたことを、妙だと感じる自分がいる。礼儀作法の一環だと知りつつ、なぜ文字が書いてあると思ったんだろう。一般的には何もないのが普通なのに。この辺の知識は、記憶とは別に残っているはず。首を傾げながら、便箋を封筒に戻した。

 残る二通は白い封筒だ。やたらと飾りが付いた文字は、くねくねと読みづらかった。それでも宛名が私だと読み取る。

 ペーパーナイフを入れて確認した文面は、どちらも謝罪とお見舞いのみ。だけど嫌悪感を覚えた。ピンクの花模様の伯爵令嬢やオレンジのラインが入った子爵令嬢には、嫌な感じを受けない。なのに、白い封筒の二人の名前を見た途端、眉間に皺が寄った。

 トラーゴ伯爵家とドゥラン侯爵家の令嬢の署名が入った二通を遠ざける。

「こちらは旦那様に処理していただきましょうか」

 戻すと言われ、素直に頷いた。模様が入っていたから、そんな理由ではない。署名や文字を見てから、気分が悪かった。名前なんて覚えていないはずなのに……。

 気遣ったサーラの差し出す水を飲み、大きく息を吐き出した。

「手紙の開封は、旦那様か子息様に立ち会っていただいた方が……よろしいかと」

 今回のように気分が悪くなるかもしれない。それは私が苦手な人や嫌いな人から、手紙が届く可能性を示唆していた。親しくないのに謝罪の手紙を寄越すのなら、よほどのことだろう。

「お父様に相談するわ」

 ぎこちなく微笑み、もう一度ピンクの封筒からカードを取り出す。手で撫でて文字を追い、枕元のテーブルの引き出しにしまった。

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

 ノックと執事の声。手紙を私が読んだと知ったみたい。サーラに部屋へ残るよう言いつけ、私は執事と階段を降りた。
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