97 / 123
96.思ってた聖獣と違う?
しおりを挟む
メイナードが期待したのは、劇的な変化だ。具体的には、ぱっと光が発して目が眩んで云々など。しかし封印が解ける瞬間は、なんとも地味で残念な光景だった。
「……なにこれ」
さっきまで何も居なかった部屋に、突然新しい生き物が増えた。問題は、それが聖獣に見えないことだ。
「ミカ様の聖獣だね、無事でよかった」
シリルの声もあまり感動的ではない。淡々と呟く姿は、他人事のようだった。いや、実際他人事なのだが……メイナードは首を傾げる。
「聖獣様って、もふもふじゃないのか?」
「さあ? 僕が知る聖獣は確かに毛皮や羽毛があるね」
「……だよなぁ」
口調が崩れたメイナードの目に映るのは、どう見ても蛇だった。それも顔……と言っていいのか、頭のすぐ後ろに小さな羽が生えた奇妙な姿だ。これが聖獣? まあ、一般的な獣と違うから、聖獣か魔獣だろうが……。
『ねぇ、私の主様はどこ? この大陸にいないみたい。まさかっ! でも違う……どこ?』
混乱しているらしい。ミカエルが隣大陸へ移動したことは想定外だ。居ないことは理解し、直後に害された可能性に絶望しかけ、まだ繋がりが残っていることに安堵する。忙しい蛇の聖獣へ、メイナードは礼を尽くすことにした。
エインズワースは聖樹と聖獣によって守られ、栄えた一族だ。どんな状況であれ、場所がどこであれ、誠実に対応するのは当然だった。
「挨拶が遅れたことをお詫びいたします。隣大陸エインズワース公国、第二子メイナードと申します」
片膝を突いて、左胸に手のひらを当てる。真心を込めた発言だと示しながら、手のひらを開いて武器を持たないと知らせる作法だった。左手は指背を地に付ける。
正式な作法として伝わる所作に、蛇はゆっくり舌を出して頷いた。
『メイナードだっけ、それと聖獣シリル様にご挨拶を。私は聖樹ミカエル様の配下にして、第一の眷属であるエリスよ。聖樹ミー様はどちら?』
「ミー様?」
あ、ああ。ミカ様のことか。一瞬声を上げたが、メイナードはすぐに状況を掴んだ。隣の大陸にいる兄でもある聖樹ラファエル様の庇護下にいると知らせれば、蛇は紅瞳をきらきらと輝かせた。
『まぁ! ミー様は兄君とご一緒なのね。生まれてすぐに封印されたから、ミー様と過ごした時間が少なくて。まだ繋がりが薄いのよ。連れて行ってくれると助かるわ』
気やすい聖獣様だと苦笑いしたメイナードだが、シリルは少し考え込んだ。
「ねえ、いま第一の眷属って言った?」
『ええ、言ったわ。私の後にもう一匹居たはず……』
そう言ったものの、思い出せないのか唸っている。トグロを巻いたエリスの前で、シリルが甲高い声で鳴いた。それは同行したフィリスを呼ぶ響き。塔の狭い部屋で反響した鳴声は、笛のように鋭く聞こえた。
「……なにこれ」
さっきまで何も居なかった部屋に、突然新しい生き物が増えた。問題は、それが聖獣に見えないことだ。
「ミカ様の聖獣だね、無事でよかった」
シリルの声もあまり感動的ではない。淡々と呟く姿は、他人事のようだった。いや、実際他人事なのだが……メイナードは首を傾げる。
「聖獣様って、もふもふじゃないのか?」
「さあ? 僕が知る聖獣は確かに毛皮や羽毛があるね」
「……だよなぁ」
口調が崩れたメイナードの目に映るのは、どう見ても蛇だった。それも顔……と言っていいのか、頭のすぐ後ろに小さな羽が生えた奇妙な姿だ。これが聖獣? まあ、一般的な獣と違うから、聖獣か魔獣だろうが……。
『ねぇ、私の主様はどこ? この大陸にいないみたい。まさかっ! でも違う……どこ?』
混乱しているらしい。ミカエルが隣大陸へ移動したことは想定外だ。居ないことは理解し、直後に害された可能性に絶望しかけ、まだ繋がりが残っていることに安堵する。忙しい蛇の聖獣へ、メイナードは礼を尽くすことにした。
エインズワースは聖樹と聖獣によって守られ、栄えた一族だ。どんな状況であれ、場所がどこであれ、誠実に対応するのは当然だった。
「挨拶が遅れたことをお詫びいたします。隣大陸エインズワース公国、第二子メイナードと申します」
片膝を突いて、左胸に手のひらを当てる。真心を込めた発言だと示しながら、手のひらを開いて武器を持たないと知らせる作法だった。左手は指背を地に付ける。
正式な作法として伝わる所作に、蛇はゆっくり舌を出して頷いた。
『メイナードだっけ、それと聖獣シリル様にご挨拶を。私は聖樹ミカエル様の配下にして、第一の眷属であるエリスよ。聖樹ミー様はどちら?』
「ミー様?」
あ、ああ。ミカ様のことか。一瞬声を上げたが、メイナードはすぐに状況を掴んだ。隣の大陸にいる兄でもある聖樹ラファエル様の庇護下にいると知らせれば、蛇は紅瞳をきらきらと輝かせた。
『まぁ! ミー様は兄君とご一緒なのね。生まれてすぐに封印されたから、ミー様と過ごした時間が少なくて。まだ繋がりが薄いのよ。連れて行ってくれると助かるわ』
気やすい聖獣様だと苦笑いしたメイナードだが、シリルは少し考え込んだ。
「ねえ、いま第一の眷属って言った?」
『ええ、言ったわ。私の後にもう一匹居たはず……』
そう言ったものの、思い出せないのか唸っている。トグロを巻いたエリスの前で、シリルが甲高い声で鳴いた。それは同行したフィリスを呼ぶ響き。塔の狭い部屋で反響した鳴声は、笛のように鋭く聞こえた。
12
お気に入りに追加
3,530
あなたにおすすめの小説
蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!
ちゃっぷ
ファンタジー
誰もが動物神の加護を得て、魔法を使ったり身体能力を向上させたり、動物を使役できる世界であまりにも異質で前例のない『蟲神』の加護を得た良家の娘・ハシャラ。
周りの人間はそんな加護を小さき生物の加護だと嘲笑し、気味が悪いと恐怖・侮蔑・軽蔑の視線を向け、家族はそんな主人公を家から追い出した。
お情けで譲渡された辺境の村の領地権を持ち、小さな屋敷に来たハシャラ。
薄暗く埃っぽい屋敷……絶望する彼女の前に、虫型の魔物が現れる。
悲鳴を上げ、気絶するハシャラ。
ここまでかと覚悟もしたけれど、次に目覚めたとき、彼女は最強の味方たちを手に入れていた。
そして味方たちと共に幸せな人生を目指し、貧しい領地と領民の正常化・健康化のために動き出す。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
都市伝説と呼ばれて
松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。
この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。
曰く『領主様に隠し子がいるらしい』
曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』
曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』
曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』
曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・
眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。
しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。
いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。
ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。
この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。
小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
【完結】妃が毒を盛っている。
佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる