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77.聖女になれない異物の監視
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思わぬ展開になっている向こう側に、大きく溜め息を吐いた。なんで私が裏切った扱いになっているのでしょうか。そう嘆くものの、仲間は一緒になって沸き立っていた。
サラに声をかけたいが、リディに妨害されている。あの女狐は一度きっちり決着をつけた方が良さそうですね。恐ろしい笑みを浮かべたアランの腕に、大きな胸を押しつけてうっとりと見上げてくる女性。舌打ちしそうになり、我慢強いアランは一度飲み込んだ。
これも仕事でしたね。彼女は、聖女を自称する異世界からの訪問者だった。
元はと言えば、帝国の属国のひとつから入った連絡が始まり。立ち入り禁止の湖に人が倒れていた。それを漁師が助けたのが、騒動の原因だ。立ち入り禁止の湖に漁師がいることが問題なので、騎士に調査させなくては。アランは考えを散らして、苛立ちを抑えた。
異世界から来たという女性は、外見から判断して成人前後、18歳頃か。自ら聖女を名乗り、異世界での記憶があると言い出した。そうなれば、調査するのが我々聖獣の数少ない役割だが……異世界から来たのは間違いなかった。
この世界の者ではない。ただ聖女の席は可愛いサラ専用ですが。そもそも聖獣は誰もこの女を選ばないでしょう。
明文化されていないが、聖女は一世代に一人。なぜなら複数の聖女が存在すれば、それぞれの命令が相反する可能性がある。聖獣同士が戦う状況を防ぐ目的で、女神の定めたルールだった。聖獣同士が戦えば、どちらも無事では済まない。ましてや総当たり戦にでもなったら、世界が滅びてしまう。
もしアランが聖女を選ばず、他の聖獣が選んだとしても聖女の地位は確定する。実際過去はそうだった。全員に選ばれた聖女はサラのみ。聖女が選ばれた時点から、当代の聖女が亡くなるまで新しい聖女は来ない。その不文律を破った異物を、どう処理したものか。
頭が痛くなる考えを纏めようとしても、不快な臭いと感触が台無しにしていく。
「ねぇ、大公様。私があなた様の国の聖女になりますわ。妻にお選びください」
胸を押しつける態度も気に入らないが、甘ったるい声と気持ち悪くなる臭さも最低だ。香水に似た臭いですが、混じった刺激臭が鼻をついて苦痛だった。妻の座を望むが、こちらの気持ちも考慮してほしい。眉を寄せたアランは、顔を背けた。
殺してしまいたいが、世界はバランスで保たれている。勝手に処理すれば、弊害が起きる可能性があった。振り払い、冷たい視線を向けるくらい許されるはず。念のため見極めに来たが、彼女が聖女の認定を受けることはない。
「離してください」
「え? なぜ……聖女ですのよ? 私がいれば世界は平和に」
すでに愛らしい聖女がおり、世界は平和に満ちていましたよ。あなたという異物が来るまでは……そう口にしそうなアランは、別の言葉を吐き捨てた。
「離せと命じました。不敬罪で処分しても構わないのですが、もう一度だけ警告しましょう」
我が国に連れ帰ったことで、勘違いさせたか。見極めを終えた今、この異物は女神により排除される未来のみ。それまで監視するのも聖獣の役目なのが、なんとも業腹ですね。
すでに聖女がいると口にして、会わせろと言われたら……アランは殺さずにいる自信がなかった。暴言でも吐かれたら、その口から引き裂くだろう。深呼吸して気持ちを落ち着けたのに、聖獣仲間はサラのご機嫌取りでこちらに向かっていた。
私を叩く? その前にアゼスの顔をボコボコにしてやります。サラの一撃はぜひ受けさせていただきますけれどね。アランが心で呟いた内容に、遠くでエルは嫌そうな顔をした。
サラに声をかけたいが、リディに妨害されている。あの女狐は一度きっちり決着をつけた方が良さそうですね。恐ろしい笑みを浮かべたアランの腕に、大きな胸を押しつけてうっとりと見上げてくる女性。舌打ちしそうになり、我慢強いアランは一度飲み込んだ。
これも仕事でしたね。彼女は、聖女を自称する異世界からの訪問者だった。
元はと言えば、帝国の属国のひとつから入った連絡が始まり。立ち入り禁止の湖に人が倒れていた。それを漁師が助けたのが、騒動の原因だ。立ち入り禁止の湖に漁師がいることが問題なので、騎士に調査させなくては。アランは考えを散らして、苛立ちを抑えた。
異世界から来たという女性は、外見から判断して成人前後、18歳頃か。自ら聖女を名乗り、異世界での記憶があると言い出した。そうなれば、調査するのが我々聖獣の数少ない役割だが……異世界から来たのは間違いなかった。
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もしアランが聖女を選ばず、他の聖獣が選んだとしても聖女の地位は確定する。実際過去はそうだった。全員に選ばれた聖女はサラのみ。聖女が選ばれた時点から、当代の聖女が亡くなるまで新しい聖女は来ない。その不文律を破った異物を、どう処理したものか。
頭が痛くなる考えを纏めようとしても、不快な臭いと感触が台無しにしていく。
「ねぇ、大公様。私があなた様の国の聖女になりますわ。妻にお選びください」
胸を押しつける態度も気に入らないが、甘ったるい声と気持ち悪くなる臭さも最低だ。香水に似た臭いですが、混じった刺激臭が鼻をついて苦痛だった。妻の座を望むが、こちらの気持ちも考慮してほしい。眉を寄せたアランは、顔を背けた。
殺してしまいたいが、世界はバランスで保たれている。勝手に処理すれば、弊害が起きる可能性があった。振り払い、冷たい視線を向けるくらい許されるはず。念のため見極めに来たが、彼女が聖女の認定を受けることはない。
「離してください」
「え? なぜ……聖女ですのよ? 私がいれば世界は平和に」
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