53 / 100
53.報復終えて、夜が明けて
しおりを挟む
一晩かかって、しっかり遊び倒した。満足げに黒狼は毛繕いを始める。噛んで潰して引っ掻いた獲物は、ズタボロの姿で転がっていた。
アランが楽しそうに心と指を折った王妃は、泡を吹いて気絶している。その両手に指はなく、二度と身につけることが出来ない指輪が転がっていた。どんなに高価な装飾品でも、付ける指がなければただの石ころだ。
国王として傲慢に振る舞った男は、肥太った豚のような格好で転がる。鍛え上げた皇帝アゼスに、拳で説教されたのだ。身体中の骨にヒビが入っているので、逃げる気力もないだろう。後は突入した国民が触れるだけで骨が折れるよう細工した彼は満足そうだった。
「今日の仕事はいい仕上がりだ。すべてヒビで留めるのは、なかなかの苦労だったぞ」
力作だと豪語するが、仲間以外に誇れないのが少し悲しい。サラに自慢したいが、この惨状を説明するのは無理だった。繊細で優しいサラが「自分のせいで誰かが傷ついた」と心を痛めたら、いくら謝っても足りないからだ。実際はそんなことないのだが……聖獣達が主人に抱く幻想は美しかった。
「僕の作品だって、それなりじゃない?」
自慢するのはエルも同様だった。吊し上げた王女の目が覚めて、悲鳴が上がったところからスタートだ。吊るした紐を緩めて落下させ、ぎりぎりでストップさせる。持ち上げてもう一度落とす。何度か繰り返すうちに反応が鈍くなったので、水を追加した。下に落ちると水に顔を突っ込んで溺れる仕組みにしたのだ。
涙から鼻水、よだれ、その他の液体が混じった水を床に垂れ流した王女は、どうみても高貴な生まれに見えなかった。化粧もすべて剥がれ落ち、恐怖で髪は真っ白になった。
「うん、これなら民に陵辱とかされないだろうし。僕としては人道に配慮した対応だったと思うよ」
「人道の意味をきちんと理解した方がいいですよ」
アランはそう指摘するものの、エルの力作を褒めた。繋がる先で、リディが覗き見しては手を叩いて喜んでいる。
「リディ、サラにバレたら……わかっていますね?」
「平気よ、ぐっすり寝てるわ」
九尾の狐であるリディは、聖獣としては最終形態である。その意味で、巨大鷲のアゼスはまだ一回だけ変化の機会を残していた。アランやエルはさらに変化の可能性が高い。年齢で言えば一番若いエルは、アランの褒め言葉に笑顔を見せた。
「国民に引き渡す時間ですね。帰りましょう」
当然のように「サラの元へ帰る」と口にしたアランへ、誰も反論しなかった。仕返しを終えた以上、この国に残る理由はない。必要な物も取り返した。
くーん。鼻を鳴らす黒狼を撫でたアランが笑った。
「安心してください、あなたも連れて帰りますから」
誰が相手でも丁寧な口調を崩さないアランは、当然のように狼を連れて転移した。
夜明けの光が差し込む王宮は、すぐに国民の乱入により破壊される。奪われ虐げられた痛みをぶつけるように、王族は全員捕らえられ、処刑となった。その前夜、長く響き渡った悲鳴や苦痛の声を知る者達は、騒動を異国の地でワイン片手に楽しんだとか。
アランが楽しそうに心と指を折った王妃は、泡を吹いて気絶している。その両手に指はなく、二度と身につけることが出来ない指輪が転がっていた。どんなに高価な装飾品でも、付ける指がなければただの石ころだ。
国王として傲慢に振る舞った男は、肥太った豚のような格好で転がる。鍛え上げた皇帝アゼスに、拳で説教されたのだ。身体中の骨にヒビが入っているので、逃げる気力もないだろう。後は突入した国民が触れるだけで骨が折れるよう細工した彼は満足そうだった。
「今日の仕事はいい仕上がりだ。すべてヒビで留めるのは、なかなかの苦労だったぞ」
力作だと豪語するが、仲間以外に誇れないのが少し悲しい。サラに自慢したいが、この惨状を説明するのは無理だった。繊細で優しいサラが「自分のせいで誰かが傷ついた」と心を痛めたら、いくら謝っても足りないからだ。実際はそんなことないのだが……聖獣達が主人に抱く幻想は美しかった。
「僕の作品だって、それなりじゃない?」
自慢するのはエルも同様だった。吊し上げた王女の目が覚めて、悲鳴が上がったところからスタートだ。吊るした紐を緩めて落下させ、ぎりぎりでストップさせる。持ち上げてもう一度落とす。何度か繰り返すうちに反応が鈍くなったので、水を追加した。下に落ちると水に顔を突っ込んで溺れる仕組みにしたのだ。
涙から鼻水、よだれ、その他の液体が混じった水を床に垂れ流した王女は、どうみても高貴な生まれに見えなかった。化粧もすべて剥がれ落ち、恐怖で髪は真っ白になった。
「うん、これなら民に陵辱とかされないだろうし。僕としては人道に配慮した対応だったと思うよ」
「人道の意味をきちんと理解した方がいいですよ」
アランはそう指摘するものの、エルの力作を褒めた。繋がる先で、リディが覗き見しては手を叩いて喜んでいる。
「リディ、サラにバレたら……わかっていますね?」
「平気よ、ぐっすり寝てるわ」
九尾の狐であるリディは、聖獣としては最終形態である。その意味で、巨大鷲のアゼスはまだ一回だけ変化の機会を残していた。アランやエルはさらに変化の可能性が高い。年齢で言えば一番若いエルは、アランの褒め言葉に笑顔を見せた。
「国民に引き渡す時間ですね。帰りましょう」
当然のように「サラの元へ帰る」と口にしたアランへ、誰も反論しなかった。仕返しを終えた以上、この国に残る理由はない。必要な物も取り返した。
くーん。鼻を鳴らす黒狼を撫でたアランが笑った。
「安心してください、あなたも連れて帰りますから」
誰が相手でも丁寧な口調を崩さないアランは、当然のように狼を連れて転移した。
夜明けの光が差し込む王宮は、すぐに国民の乱入により破壊される。奪われ虐げられた痛みをぶつけるように、王族は全員捕らえられ、処刑となった。その前夜、長く響き渡った悲鳴や苦痛の声を知る者達は、騒動を異国の地でワイン片手に楽しんだとか。
98
お気に入りに追加
2,310
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる