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53.報復終えて、夜が明けて

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 一晩かかって、しっかり遊び倒した。満足げに黒狼は毛繕いを始める。噛んで潰して引っ掻いた獲物は、ズタボロの姿で転がっていた。

 アランが楽しそうに心と指を折った王妃は、泡を吹いて気絶している。その両手に指はなく、二度と身につけることが出来ない指輪が転がっていた。どんなに高価な装飾品でも、付ける指がなければただの石ころだ。

 国王として傲慢に振る舞った男は、肥太った豚のような格好で転がる。鍛え上げた皇帝アゼスに、拳で説教されたのだ。身体中の骨にヒビが入っているので、逃げる気力もないだろう。後は突入した国民が触れるだけで骨が折れるよう細工した彼は満足そうだった。

「今日の仕事はいい仕上がりだ。すべてヒビで留めるのは、なかなかの苦労だったぞ」

 力作だと豪語するが、仲間以外に誇れないのが少し悲しい。サラに自慢したいが、この惨状を説明するのは無理だった。繊細で優しいサラが「自分のせいで誰かが傷ついた」と心を痛めたら、いくら謝っても足りないからだ。実際はそんなことないのだが……聖獣達が主人に抱く幻想は美しかった。

「僕の作品だって、それなりじゃない?」

 自慢するのはエルも同様だった。吊し上げた王女の目が覚めて、悲鳴が上がったところからスタートだ。吊るした紐を緩めて落下させ、ぎりぎりでストップさせる。持ち上げてもう一度落とす。何度か繰り返すうちに反応が鈍くなったので、水を追加した。下に落ちると水に顔を突っ込んで溺れる仕組みにしたのだ。

 涙から鼻水、よだれ、その他の液体が混じった水を床に垂れ流した王女は、どうみても高貴な生まれに見えなかった。化粧もすべて剥がれ落ち、恐怖で髪は真っ白になった。

「うん、これなら民に陵辱とかされないだろうし。僕としては人道に配慮した対応だったと思うよ」

「人道の意味をきちんと理解した方がいいですよ」

 アランはそう指摘するものの、エルの力作を褒めた。繋がる先で、リディが覗き見しては手を叩いて喜んでいる。

「リディ、サラにバレたら……わかっていますね?」

「平気よ、ぐっすり寝てるわ」

 九尾の狐であるリディは、聖獣としては最終形態である。その意味で、巨大鷲のアゼスはまだ一回だけ変化の機会を残していた。アランやエルはさらに変化の可能性が高い。年齢で言えば一番若いエルは、アランの褒め言葉に笑顔を見せた。

「国民に引き渡す時間ですね。帰りましょう」

 当然のように「サラの元へ帰る」と口にしたアランへ、誰も反論しなかった。仕返しを終えた以上、この国に残る理由はない。必要な物も取り返した。

 くーん。鼻を鳴らす黒狼を撫でたアランが笑った。

「安心してください、あなたも連れて帰りますから」

 誰が相手でも丁寧な口調を崩さないアランは、当然のように狼を連れて転移した。

 夜明けの光が差し込む王宮は、すぐに国民の乱入により破壊される。奪われ虐げられた痛みをぶつけるように、王族は全員捕らえられ、処刑となった。その前夜、長く響き渡った悲鳴や苦痛の声を知る者達は、騒動を異国の地でワイン片手に楽しんだとか。
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