上 下
318 / 321
外伝

外伝7.お父さん?(SIDEセティ)

しおりを挟む
 イシスが食べなくなった。食べ物の匂いで顔を顰めている。胸が気持ち悪いと嘆くあの子は、しょんぼりと肩を落とす。用意したのに食べないなんて、贅沢で我が侭だと思っているらしい。大きくなっても軽いイシスを抱き上げて、膝の上に座らせた。横になるより、縦に寄り掛かっている方が体が楽なようだ。

「原始の泉に行くか」

 原始神殿はガイアが支配する領域だ。彼が引き籠った場所には、過去に神族が暮らした空間に繋がる泉が残されていた。イシスの神格を引き上げる際も、完全に神に変わる時も利用した。神族の不調はあの泉に浸かれば、リセットされる。

「トムとガイアのとこ?」

「そうだ、今はカイルスは放浪してて留守だからな」

 トムは先日出産したばかりだ。神格の一部は残っていても、かなり弱い。その所為か、生まれた子はすべて猫だった。いずれ神に変わる可能性は高いが、現時点では獣の子だ。ショックを受けたガイアには悪いが、予想通り過ぎて笑った。

 原始神殿の手前に転移し、ここからは徒歩だが……具合の悪いイシスを歩かせる気はない。横抱きにしたら、するりと手が首に絡みついた。いつもより体温が高い気がする。

「熱があるか?」

「ううん」

 平気、そう笑うイシスに辛そうな様子はない。眠いのかも知れないな。そういえば、ここ最近はよく眠っていた。原始神殿なら神族以外は入れないので、危険は少ない。あの腰抜けぞろいの神族の中に、破壊神の嫁に手を出す愚か者はいないだろう。

 結界の境目を抜けたところで、金色の猫が出迎えに来た。トムを見るなり、イシスは興奮してしまい降りると言い出す。具合が悪いから連れてきたのに。まあ体調がいいなら歩かせるか。下ろしたら、すぐにトムを抱き上げた。

 薄い縞模様が入った金色の猫がにゃーと鳴く。神殿の方から呼応するように子猫の声がした。目を輝かせるイシスは原始神殿の階段を上り、中に駆け込む。

「可愛いねぇ」

 次々と飛びかかる子猫を抱き留め、床の上に座ってしまった。冷えるので絨毯やクッションのある部屋に移動させ、そこで子猫を膝に乗せる。撫でたり頬ずりしたり忙しいイシスは、ひとしきり遊んだ後……突然横になった。眠っているのだ。ここ最近、この状態が続いている。

「おや、帰ってきたんだね。おかえり、イシスは寝てるの?」

 ガイアが神殿に現れる。先ほどまで気配がなかったので、どこかに出掛けていたようだ。首を傾げてイシスをじっくりと観察した後、ふふっと笑った。

「おめでとう、タイフォン。君もお父さんだよ」

「……は?」

 驚き過ぎて声にならないオレに、「お父さん」と衝撃ワードを繰り返すガイア。見開いた目に映る兄弟神は「そんなに驚かなくてもいいのに」と笑った。視線を落として、クッションを抱いて眠るイシスを見つめる。隣に腰を下ろし、抱き寄せた。

 このイシスの腹に、我が子が? まだ平らな腹の上に手を置いて、自分でもわかるくらい口元が緩んだ。そうか、今まで以上に大切にしないとな。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。

にゃーつ
BL
真っ白な病室。 まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。 4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。 国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。 看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。 だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。 研修医×病弱な大病院の息子

処理中です...