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外伝
外伝2.お転婆姫との遭遇(SIDEカイルス)
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いくら可愛いと言っても、兄弟の伴侶に手を出す気はない。その辺は理解してくれているので助かるが。泉の向こうにある原始の神々が住んだ聖域で、数万年も眠っていたから世情に疎い。社会勉強と嘯いて外へ飛び出したのは、彼らに妙な嫉妬をされないためだった。
イシスは無邪気で純粋で、いつも心を開いている。あれは奇跡だ。あのタイフォンがよく壊さなかったものだと感心した。献上された贄の中から伴侶に巡り合う可能性は低い。人間は常に自分の尺度で物事を考え、神々の大きな視点に立てなかった。だから身勝手な願いを押し付け、神々の怒りを買うのだ。
何度も同じ過ちをして学ばない。そんな愚かな種族に、イシスより純粋な子はいないだろう。その意味で、俺が伴侶を見つけるのは難しい。あのタイフォンですら数千年かけて見つけたのだから、長期戦は覚悟の上だった。願わくば、出会うのが一日も早くあれとは思うが。
ふらりと立ち寄った森で、小さなドラゴンが水浴びをしている。湖の向こう側なので気にせず、こちらも水に足を付けた。成長は腐食や腐敗と紙一重だ。成長を司る神は、同時に腐敗に対しても力を発揮する。水を濁らせてしまえば、この周辺に棲む動物が困るだろう。
気を遣うのもいい加減慣れた。掬った水で顔を洗い、手足を清める。この湖は底から水が湧いているらしい。澄んだ美しい水だった。一口含み、柔らかな口当たりの冷水を飲み込む。ほっと一息ついた。俺が伴侶を見つけないと、原始神殿は居心地が悪い。帰れば歓迎されるので、こちらの気の持ちようだろう。
「やめなさいよ! もう!!」
突然響いた声に顔を上げるが、周囲に誰もいない。広い湖の向こうにドラゴンがいるだけ。それも2匹に増えていた。あのどちらか、か? ここまで物理的に声が届くはずはないのに。何か用事があるわけではなく、急いでもいない。興味に素直になっても構わないとばかり、近くの茂みに転移した。
ぐあああ! 怒った様子で大きなドラゴンが、まだ子どものドラゴンに威嚇する。脅しているのか。年齢が若いことと未熟なことが重なり、大きい水色のドラゴンの言葉は聞こえない。小さな薄桃色のドラゴンは、苛立った様子で大きなドラゴンを蹴飛ばした。
「嫌だって言ってるでしょ!! 近づかないで! おじいさまに言いつけるからね」
威勢のいい子だが、あまり邪険にすると危ないのではないか? おじいさまが実力者のようだが、相手もなかなか引き下がらない。
ぐぉ、うぁあああ! 何か抗議する声を上げたと思ったら、体の大きさを利用して薄桃のドラゴンを押し倒そうとした。くるっと反転して湖へ飛び込んだ彼女は、中から反撃する。ぐっと吸い込んだ息を吐き出したが、氷と冷気のブレスだった。
相手の動きを封じるまでしっかりやり込め、彼女は凍った湖の端をぺたぺたと歩いて戻ってくる。ふんと鼻を鳴らして、濡れた全身を震わせた。
「レディに失礼よ! あんたみたいな礼儀知らずを相手にするわけないでしょ。イシスおじさま達を見習いなさいっての!」
思わぬ場所で予想外の人物の名が聞こえたため、俺は思わず飛び出した。
「イシスの知り合いか?」
イシスは無邪気で純粋で、いつも心を開いている。あれは奇跡だ。あのタイフォンがよく壊さなかったものだと感心した。献上された贄の中から伴侶に巡り合う可能性は低い。人間は常に自分の尺度で物事を考え、神々の大きな視点に立てなかった。だから身勝手な願いを押し付け、神々の怒りを買うのだ。
何度も同じ過ちをして学ばない。そんな愚かな種族に、イシスより純粋な子はいないだろう。その意味で、俺が伴侶を見つけるのは難しい。あのタイフォンですら数千年かけて見つけたのだから、長期戦は覚悟の上だった。願わくば、出会うのが一日も早くあれとは思うが。
ふらりと立ち寄った森で、小さなドラゴンが水浴びをしている。湖の向こう側なので気にせず、こちらも水に足を付けた。成長は腐食や腐敗と紙一重だ。成長を司る神は、同時に腐敗に対しても力を発揮する。水を濁らせてしまえば、この周辺に棲む動物が困るだろう。
気を遣うのもいい加減慣れた。掬った水で顔を洗い、手足を清める。この湖は底から水が湧いているらしい。澄んだ美しい水だった。一口含み、柔らかな口当たりの冷水を飲み込む。ほっと一息ついた。俺が伴侶を見つけないと、原始神殿は居心地が悪い。帰れば歓迎されるので、こちらの気の持ちようだろう。
「やめなさいよ! もう!!」
突然響いた声に顔を上げるが、周囲に誰もいない。広い湖の向こうにドラゴンがいるだけ。それも2匹に増えていた。あのどちらか、か? ここまで物理的に声が届くはずはないのに。何か用事があるわけではなく、急いでもいない。興味に素直になっても構わないとばかり、近くの茂みに転移した。
ぐあああ! 怒った様子で大きなドラゴンが、まだ子どものドラゴンに威嚇する。脅しているのか。年齢が若いことと未熟なことが重なり、大きい水色のドラゴンの言葉は聞こえない。小さな薄桃色のドラゴンは、苛立った様子で大きなドラゴンを蹴飛ばした。
「嫌だって言ってるでしょ!! 近づかないで! おじいさまに言いつけるからね」
威勢のいい子だが、あまり邪険にすると危ないのではないか? おじいさまが実力者のようだが、相手もなかなか引き下がらない。
ぐぉ、うぁあああ! 何か抗議する声を上げたと思ったら、体の大きさを利用して薄桃のドラゴンを押し倒そうとした。くるっと反転して湖へ飛び込んだ彼女は、中から反撃する。ぐっと吸い込んだ息を吐き出したが、氷と冷気のブレスだった。
相手の動きを封じるまでしっかりやり込め、彼女は凍った湖の端をぺたぺたと歩いて戻ってくる。ふんと鼻を鳴らして、濡れた全身を震わせた。
「レディに失礼よ! あんたみたいな礼儀知らずを相手にするわけないでしょ。イシスおじさま達を見習いなさいっての!」
思わぬ場所で予想外の人物の名が聞こえたため、俺は思わず飛び出した。
「イシスの知り合いか?」
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