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278.落ちたら心配させちゃった

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 ルードルフお兄さんは留守で、洞窟内で待つことになった。ボリスは疲れたみたいでお昼寝を始めて、僕も一緒にお母さんに抱っこしてもらう。お母さんの鱗、ひんやりするけど温かいの。不思議なんだけど、抱っこで触ると暖かいんだよ。

 お母さんは時々角のリボンを確認して、嬉しそうに笑う。僕も嬉しくて強く抱き着いた。テントやかまどの準備を終えたセティが僕を抱っこして、一緒にお母さんの上で寝転がる。ボリスがずり落ちそうになって、お母さんが尻尾で器用に戻していた。

「向こうの大陸では、楽しいことがあったかい?」

「うん。あのね、お友達が出来た。それからご飯を買って皆で食べて、あと小さな氷が降ってくる場所とか。すごく塩辛い水も入ったの」

 話したいことがいっぱい過ぎて、よく分からない説明になっちゃった。セティが落ち着けと撫でた手に頷いて、今度はゆっくり話し始める。たくさん遊んで、知らない神様も挨拶して、海を船で渡った。人間のお友達が初めてできて、また会おうねと別れたこと。リボンを買いに行ったお店の話も。

 話し終えたところで、洞窟の入り口が騒がしくなった。お父さんの鳴き声だ。お母さんの鱗を滑り降りて走る。後ろからボリスが追いかけてきた。いつの間に起きたの? 僕より足が速いと思ったら、服の襟を咥えて走ってくれた。

 お父さんを見つけたボリスが、ぎゃあ! と鳴き声を上げる。咥えていた僕の襟が離れて、お尻から落ちちゃった。ちょっと痛いけど、心配しなくて平気だよ? だからお父さんもボリスを叱らないで。ボリスを叱るお父さんが怖い顔をしたから、必死で止めた。

「低い位置だし、僕、痛くなかったよ? 本当だから、もう叱らないで」

 お父さんは唸ったけど、ボリスを許してくれた。僕がドラゴンじゃないから、弱いと心配させたみたい。ボリスはびっくりしすぎて泣き出し、抱きしめて何度も撫でた。大きくなったな、ボリスの背に手が回らなくなっちゃった。

「本当に痛くないのか?」

「うん。びっくりしただけ。ボリスは悪くないんだよ、足が遅い僕を運んでくれたの。心配させてごめんね」

 お父さんの後ろから顔を出したルードルフお兄さんが、笑いながらボリスを咥えて運んで行った。お母さんに慰めてもらうんだって。なぜか僕に手を伸ばして騒いでるけど、いいのかな?

「まあ番のタイフォン殿が飛んでこないなら、イシスの無事は確かか」

 セティは空を飛ばないよ? お父さんに首を傾げたけど、翼を広げておいでと呼ぶ声に突進した。目いっぱい抱き着いて、お父さんの銀色の鱗に頬をすり寄せる。お父さんが僕を持ち上げて運んでくれる。高い位置は天井が近くて、お父さんの頭に伏せた。

「お土産があるの。お母さんが凄く可愛いよ」

 前もって説明しておく。だって、お母さんはお父さんに褒めてもらいたいでしょ? お父さんが頷いたら、僕が大きく揺れる。笑いながら戻った洞窟の奥で、お母さんは拗ねたボリスを抱き締めていた。お兄さんには緑のリボンを、お父さんには青いリボンを用意したの。

 頭の上にいる間に結びたいけど……下を見ると、セティが風を使って僕にリボンを届けてくれた。お父さんに声を掛けてから、枝みたいな角の根元に巻いていく。2本あるから左側ね。ぐるぐる巻いて小さなリボンをした。凄く綺麗で似合うよ。
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