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234.全能神に押し付けてやるさ(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



 優しいイシスがいなければ、オレはガキどもを無視して素通りしただろう。助けてやる義理はない。信者かどうかではなく、興味がなかった。お腹が空くのはつらい、過去の経験で知るイシスが心を痛めるなら、何とかしてやるのは伴侶の役目だろう。

 この子達に一時しのぎの食事を与えるのは、逆に可哀想だ。そう告げたのは屋台の店主だった。残飯を漁るのを許してやり、客の食べ残しを別のゴミ箱に捨てる。それを施すので手いっぱいなのだ。彼らなりに孤児や浮浪児を見守っていた。

 子どもの誘拐が多いこちらの大陸で、これだけの子どもが無事なのは屋台の店主達のお陰だろう。施すのなら、今後も続く形にしてやる必要があった。金を与えて養わせる。それもひとつの手だが、いずれは破綻する。ならば……続く形を世界に焼き付ければいい。

「こういうのはガイアの方が得意なんだが」

 苦笑いしてイシスの後ろを歩く。手を繋いで一歩先を歩くイシスの手が揺れるたび、オレがどれだけ満たされているか。時々不安そうに振り返って、オレを見て笑う顔にどれだけ救われるか。イシスは気づかない。

 今にも崩れそうな低い屋根のあばら家が続く一角で、案内する子どもが足を止めた。中を指さす。だからお礼のパンを渡して、ノックするイシスを見守った。パンを貰った子もすぐにいなくならず、不安そうに中を窺っている。

「うわっ、なんだよ! パンはくれたんだろ」

 取り返されると思ったらしい。子どもは叫んで扉を閉めようとした。イシスが手を挟む前に、手で押し開く。慌てて奥へ逃げ込むが、僅かなスペースしかない部屋の中は一望できた。母親らしき女性が何とか身を起こそうとしている。

「動かないで。具合が悪い時は動いちゃダメ」

 イシスが駆け寄る。手が離れてしまったので屈んで中に入り、泥を固めた地面むき出しの床に片膝をついた。むんとした臭いは、病人の体を清潔に保っていないためだ。

「あの、うちの子が何か……先ほどのパンでしたら」

「ああ、違う。心配させて済まない。あのパンは、この子が自分の分を持ち帰ったから心配いらない」

 取り返したりしないと言われ、ほっとした様子で女性は体の力を抜いた。地面に枯草を敷いただけの寝床は不衛生で硬い。病人を寝かせる場所じゃないな。周囲の建物も似たような形状だったので、どこも同じか。

「セティ、僕の食べ物をあげたい」

「それはいいが、今後のために手を打とうか」

 きょとんとした顔で両手を持ち上げて、ぱちんと叩くイシスに噴き出した。言葉を文字通りに受け取った可愛い伴侶の頬にキスをして、手元に引き寄せる。こちらの大陸は、胸糞悪い全能神のじじいの管轄だった。だからガイアも手出しして来なかったが、今後のために苦労を押し付けてやろう。

 弱い神々を守るためだと言って大陸を分割し、様々な制約を設けたんだ。その責任はしっかり取ってもらうぞ。にやりと口角を持ち上げたオレの頬に、イシスがキスをする。

「ん?」

「お返し」

 可愛いことを口にする唇を奪いたいが、人前ではダメだ。キスの後の可愛い顔を誰かに見せたくないからな。迷った末に額にキスをして、茫然と見守る一家に提案をした。

「慈善事業に付きあう気はあるか? もっといい生活が出来るようになるし、食事も貰える。病の治療もしてやろう。もちろん金や子どもを奪ったりしない」
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