上 下
215 / 321

214.オレの嫁に触れるな!

しおりを挟む
 干した薬草を扱う店に立ち寄り、幾つか選んで購入する。セティが話すのを見ながら、僕は置いてあった小さな赤い実が気になった。あれ、甘いのかな。

「セティ、あれは?」

「ああ、毒だから間違っても口にするなよ」

 前に食べた実に似てるけど、違うらしい。食べるとお腹が痛くなるけど、砕いて別の薬草と一緒に飲めば、二日酔いに効くと教えてくれた。二日酔いは僕には早いと言って、また交渉を始めた。両手を使って薬草を選ぶセティの上着の裾を握った僕は、後ろからいきなり掴まれた。

 腹に回された手が無理やり引っ張り、僕をセティから離そうとする。怖い、嫌だ、何するの! セティ、セティ、変なのいる!!

 暴れた僕を押さえようとした男が僕の首筋に手を突っ込む。ごそごそと何かを探す手が気持ち悪かった。

「何してんだっ! 勝手に人の嫁に触るんじゃねえ!!」

 セティの低くて怖い声がして、僕は引き摺られながら手を伸ばす。セティの手が、僕の後ろの男を指差した。その指が左右に振られると、拘束してた腕が解ける。僕は転がるようにしてセティの足元に逃げた。

 気持ち悪い、なんか汚れた気がする。肌がぞわぞわして、すごく嫌だ。セティの足にしがみついて、床に座ったまま顔を上げた。怖い顔をしたセティだけど、僕を見ると目が優しくなる。安心してセティの足に両手でくっついた。

「うわっ、やめ……」

「ふーん。オレの物に手を出して、ただで済むと思ったのか?」

 足がつかない高さまで浮いた男の姿に、僕は目を瞬いた。見たことある、この人……街に入るときに。

「門で僕をじろじろ見た人?」

「そうだ。お前を狙って襲ったんだ」

 セティは僕の名前を呼ばない。もしかして汚れたから? 慌てて服の襟を掴んで中を覗いた。見た目じゃわからないけど、こんなに気持ち悪いんだから何か付いたかも。どうしよう。洗ったら取れるかな。

「何事だ!?」

「ケンカか?」

 門兵と同じような鎧を着た人が近づいてきて、僕は怖くなった。この人達が触ったら、また汚れる。そうしたらセティが僕の名前を呼んでくれなくて、捨てられちゃう。

「おい、落ち着け」

 やっぱり名を呼ばない。ぽろりと涙が溢れた。怖い、胸が苦しい、こんなのやだ!!

「やだぁ!!」

 全力で叫んだ。喉の奥が痛くて、切れたみたいにヒリヒリした。それでも嫌だと泣いて叫んで、僕は両手を振り回す。もう何が怖かったのか分からないけど、怖い。助けて。

 周囲が暗くなる。顔をあげた僕はセティに抱き締められていた。ぎゅっと強く、息が苦しいくらい。

「ったく、念話を覚えさせないとダメだな、大丈夫だ……イシス」

 耳元で聞こえた声に、僕の名前があった。嬉しくても流れる涙を拭いながら頷く。僕も手を回して抱きついた。

「まて、貴様ら……街の衛兵に対して」

「この街では衛兵が強盗を働くのか? 仲間の罪を見逃して擁護するって言うなら、オレも相応の対応をするぞ」

 抱き着いた僕の上に黒いローブをかけながら、セティが低い声で突きつけた。

「このタグを見ても同じことを言えるなら、話を聞いてやろう」

 セティは首の鎖を乱暴に外し、兵達の先頭に立つ指揮官へ放り投げた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...