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212.フェルと寝たい

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 いきなり隣の大陸に飛ぶことは出来ない。よく分からない決まりがあって、神様も万能じゃないって前に聞いた。だからかな、海の近くにいた。前に魚を買いに来たところと似てる。ベタベタする風が吹く大きな湖は海……目を見開いた僕と手を繋ぎ、セティが笑った。

「久しぶりの海だな、少し遊んでから船に乗るぞ」

 遊ぶと聞いて、海辺に向かって坂を下る。まばらな茂みがある坂から、何も生えてない白い砂に変わった足元は熱く感じた。

「熱いね」

「天気がいいからだろう」

 見上げた空は晴れていて、洞窟の上の曇った空が嘘みたい。ぐるっと見回しても雲は白くて、すごく遠くまで来たことだけ分かった。打ち寄せる波を追いかけたり逃げたり、シェリアは海を知ってるのかな? ふと思い出して、先ほど別れたばかりなのに寂しい。でも僕はセティがいるから平気だ。

「セティ、向こうの大陸は何があるの?」

 人攫いの転移魔法でガイアと飛んだ時は、いきなり牢屋に入れられた。すぐにお父さんが来て天井を壊したから、僕が知ってるのは山の中腹ら辺だったことだけ。人の姿をしたガイアと逃げて、お父さんと合流したらセティは炎の鳥さんに乗ってきた。後で、あれはズルだったと聞いたけど。ズルしても助けに来てくれたのは嬉しい。

「うーん、基本はこちらと大差ないな。向こうは竜がいなくて、龍がいるぞ」

 同じ呼び方なのに、姿形が違うと説明される。砂の上にセティが絵を描いてくれた。背中に羽がついた絵は、お父さんかな。隣の長細い蛇が龍なの?

「絵は昔からダメなんだよな」

 苦笑いする。意味を聞いたら苦手なんだって。あまり上手じゃないと言われて、もう一度絵を見た。でもセティが手で砂を掻いて消しちゃった。僕はお父さんの絵、すぐにわかった。長い蛇も本物を見たことがあればわかると思う。僕が本物の龍を知らないから、セティの絵が分からないんだね。

「イシスは優しい」

「ううん、セティのが僕よりこーんなにいっぱい優しいよ」

 両手を広げて表現したら後ろにひっくり返った。背中が温かくなって、砂の上で笑う。セティが伸ばした手を握って起き上がり、僕の背中についた砂を払ってもらった。

「ん? 近くにフェルがいるぞ。フェルと一緒に野営するか、海辺の宿に泊まるか。どちらがいい?」

 セティは僕に聞いてくれた。僕の希望で決めてもいいの? だったら僕は……フェルと一緒がいい。

「フェルと寝たい」

「んん゛、ちょっと表現が悪い。フェルと野営しような」

 毛皮の上で寝るのは、野営の一部なの? よく分からないけど、誰かと寝たいと言ったらいけないみたい。僕はまだ言葉が上手じゃないから、セティが直してくれるのは助かるんだ。ありがとう、そういって頬にキスをしたら困った顔をされちゃった。

 人前じゃないし、唇にもしなかったのに……変なセティだね。
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