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142.安心できる場所だね

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 ふわふわした気持ちで目を開いて、ぼんやりと周りを見回した。なんだかよく見えない。怖くて手を伸ばすと、指先に冷たい物が触れた。

「だれ?」

『起きたのかい? イシスは熱があったんだよ、覚えている?』

 まだよく見えないけど、お母さんの声だ。ほっとして頷いた。覚えてるけど、セティは? 鱗を撫でて気付いた。僕、お母さんの上に寝てるみたい。

『ティフォン』

「おう、今行く」

 お母さんの声に答えたセティが、僕の頬に手を触れた。それから額も。熱を測ったのかな。少しセティのが冷たいね。

「まだもう少しだな。悪いが抱いててやってくれ」

 ぐぁああ! ボリスの声がする。大きな声で鳴いてるけど、お父さんの声が『後にしなさい』と注意してた。僕、もう平気だから、ボリスを叱らないで。起きあがろうとしたら、セティが上から押さえた。

「まだ動くな、ボリスは後だ」

 変なの。でもお父さんに、ボリスにもイシスの顔を見せてやれと話してくれた。お父さんやお母さんより小さいボリスは、お父さんの頭に乗って僕の近くに来た。撫でるとひんやりする。頬を擦り寄せて満足したのかな。降ろされてもボリスは文句を言わなかった。

 僕の弟は偉くて可愛くて、すごい。トムとガイアは? 手をぱたぱた動かすと、お腹の辺りで何かが動いた。柔らかい毛皮が僕の顔の近くまで歩いてきて、僕の頬を舐める。トムだ、ちゃんとゲリュオンが見つけてくれたんだね。首に乗っかるようにして、ガイアが僕を包んでくれる。気持ちいい。

 うとうとする僕は、そのまま眠ってしまったみたい。次に起きた時は、すっきりしてた。頭もぼんやりしないし、目もちゃんと見える。起き上がる僕の胸の上から、ガイアが転がった。

「あ、ごめん」

 助け起こして、よく見るとお腹の横にトムが寝ていた。潰さなくてよかった。

「元気になったな、安心した」

 セティが小さくなったの? 腕と頭しか見えなくて焦るけど、僕がお母さんの上に乗ってるからだね。セティは僕の横に登ってきて、また額の熱を測った。今度は平気だったみたい。笑って膝の上に乗せてくれる。

『おやおや、熱が下がったようだね』

「お母さん、ありがとう」

 大好きなお母さんの青い鱗を抱き締める。冷たくて硬いのに、すごく居心地がよかった。お母さんといると、セティといる時みたいに安心する。ガイアがくすくす笑い出し、セティが肩をすくめた。

『うまい肉を見つけたぞ。起きたのか、イシス』

 熱は下がったか? 心配しながらお父さんが洞窟に入ってきた。僕が覚えてるのは別の大陸から帰るお話をしたところまで。あの後、お父さんが乗せてきてくれたんだね。お礼をいって抱き着こうとすると、お父さんが止めた。

『狩りで汚れておる。後にしよう』

 鱗が泥だらけのお父さんは、捕まえた獲物をお母さんに渡して外へ出た。綺麗にするために、外にある湖に行ったんだって。待っている間にたくさんの毛が生えた動物を、お母さんが千切り始めた。ボリスもお手伝いしようとして突いて、お母さんに退けられてる。まだ上手に出来ないみたい。

 この洞窟、僕の家族のお家だからかな。すごく暖かい気がした。
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