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140.ガイアは何で怒ってるの?

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 大好きなセティに抱き着いて、顔を上げるとキスしてくれた。唇に軽く触れるだけ。きっと、僕が不安そうにしていたからだね。人がいるけど、ちゅっと音をさせたキスが嬉しかった。

「あ、お父さんが攻撃されてたの!」

『問題ないぞ』

 羽に何か細い棒が刺さってない? 心配で手を伸ばして引き抜くと、ガイアが「矢だ」と呟いた。セティの足に抱き着いたガイアの声が低くて、怒ったような響きになる。もしかして矢って、痛いの? お父さん、いっぱいケガしちゃった? 僕のせいだ。

 くちゃっと顔が崩れて、泣きそうになる。唇を尖らせた僕に、微笑んだセティが指先で唇を押し返した。それから丁寧に説明してくれる。

「矢は弓という道具を使って飛ばす。遠くまで飛ぶから、フェニックスやドラゴンのように空を飛ぶ種族にも攻撃が出来るんだ。この矢は毒が塗られてる。ドラゴンが来たんで攻撃用に持ち出したんだろう」

 毒……それは意味を知らないのに、怖い響きで。僕はぎゅっと拳を握った。不安がいっぱいに胸を満たして、泣きそうになりながら見上げたお父さんは前足の爪で矢を叩き落としていた。

「お父さん、ごめん……ごめんね。僕が呼んだから」

『呼ばねば叱らなければならんぞ。危険ならば呼べと教え、イシスはそれに従った。さすがは我が息子だ。それに毒など効かぬ』

「きかないの?」

 毒って音なのかな。聞くもの? きょとんとした僕に、セティが毒の意味を教える。危険だから絶対に手を触れてはいけなくて、もし口や傷から体に入ると痛くて苦しいこと。ドラゴンやフェニックスは元から毒に強い種族だから問題ないこと。僕が知らなかった話をしている間にも、矢は飛んできた。

 三角の尖った部分がついた棒は、後ろに羽が飾られてる。見た目は綺麗だけど、三角の部分が黒く濡れていた。飛んできた矢をひょいっと掴んだセティが、見せて説明してくれる。触るなと言われたから、顔を動かして上や下から確認した。
 
 毒が無くても、この先の部分は尖ってて刺さると痛そう。顔をしかめていると、セティが矢をぽいっと後ろに捨てた。お父さんは毒の付いた矢が刺さったのに、全然元気そうだね。首を傾げて手を伸ばすと、触る前に注意される。

『濡れた部分は触れるでないぞ、矢の毒が残っておる』

「うん、痛くないの?」

『刺さると、むずむずする』

 むずむずするくらいか。お父さんは凄いな。やっぱり強いドラゴンだ。セティが空に合図すると、ずっと旋回していた燃える鳥さんが「くぅ!」と鳴いて向きを変える。帰るみたい。ありがとうとお礼を叫んで手を振った。セティを連れてきてくれたんだ。また会いに行くね。

「さて、帰るか」

「セティ、この現状を見てよくそんなこと言うね」

 ガイアがムッとした口調で怒る。でもセティは僕を迎えに来たんだし、運んでくれた鳥さんは帰ったから……僕達はお父さんと帰らないと困るよ。お父さんも忙しいから早くお母さんのところへ帰してあげたいもの。

 きょとんとした僕の頬に、苦笑いしたガイアが手を滑らせてから溜め息をついた。

「ここには捕まった子供や女性が山ほどいる。また捕まってしまうよ」

「そんなの、この大陸の神の担当だ」

 呼び方を変えたんだな、なんて軽口を添えたセティの声を聞きながら、僕は大きく欠伸をした。疲れたのかな、眠くなってきちゃった。
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