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139.父親に譲るか(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
人攫いがよく出るとは聞いていたが、まさか座ったベンチに仕掛けられているとは思わなかった。それはガイアも同様だったらしく、無防備に座ったイシスが吸い込まれる。咄嗟に伸ばした手はガイアが握り、そのまま転げ落ちた。にっこりと満面の笑みを残して……。
ガイアの居場所はイシス同様に感知できる。転移先で出現したらすぐに迎えに……そこで派手に舌打ちした。くそっ、大陸をまたいで移動したのか。
「ゲリュオン!」
トムを抱いて戻るゲリュオンが、異変を察知したらしく慌ただしく走ってくる。大柄な男に宿で待つよう伝えた。大陸を超えるなら、身軽な方がいい。
「俺も手伝うぞ」
「邪魔だ」
今はわずかでも早く助けに行きたい。森を抜けた火山まで一気に転移を掛け、無理やり結界を潜り抜ける。多少の擦り傷を負ったが、痛みも気にならなかった。侵入者だと騒ぐフェニックスの1羽に頼み、乗せてもらう。地続きの大陸ならば、一瞬で転移できたものを。
舞い上がる炎の向こうに広がる海を睨みつけ、オレは焦る気持ちを抑えるためにひとつ大きく息を吐いた。少しすると、同じようにこちらの大陸から舞い上がる強大な魔力を感じる。竜帝――まさかイシスか? 可能性はある。無自覚に父を呼んだのか。
そこへ飛び込んだのは、怖いと泣くイシスの声だった。ガイアが付いていてケガの心配はしないが、あの子は大人を怖がる。体の傷はなくとも、心に負った傷は些細なきっかけで開いてしまうだろう。
『ドラゴンの帝が動いたねぇ。飛ばすよ』
鳳凰の羽ばたきが強くなり、加速した。風を防ぎながらも気持ちはさらに前へ駆け出す。あの子が泣いているのに、移動に制限があるなど……絶対に撤廃してやる。神々のくだらない取り決めと制約を思い出し、オレは焦った。
イシスの腕輪は竜帝ファフニールが己の鱗から精製したものだ。大量の魔力を注ぎ作り上げたため、並みの魔物ならば近づけない。触れようとするのは、愚鈍な人間ぐらいだろう。たどり着いたのは、森に突き出た岩山だった。
『我が息子を返せ!!』
竜帝が炎のブレスを叩きつける。岩をどろどろと溶かす高温の中、続いて風を叩きつけた。割れた岩が崩れ始める。岩山には洞窟が掘られ、そこから人間が飛び出した。あの中にイシスがいるか、目を凝らすが見つからない。ガイアが一緒にいるなら、熱や風は通用しない。
岩山の高い位置から子供が飛び出てきた。イシスだ。ガイアと手を繋いだ子供は、大きく手を振った。無事だった……それだけで体の力が抜けてしまう。
『私も攻撃を仕掛けようか?』
「いや、ファフニールに任せよう。あの岩の上に下ろしてくれ」
くるくると回転しながら高度を落とした鳳凰は、オレを降ろすと甲高い声で挨拶を残して舞い上がった。帰りはファフニールに頼め、か? 何とでもなるさ。大切なイシスを抱き上げ、なぜか子供のように抱き着いたガイアを支えて、オレは安堵の息をついた。
人攫いがよく出るとは聞いていたが、まさか座ったベンチに仕掛けられているとは思わなかった。それはガイアも同様だったらしく、無防備に座ったイシスが吸い込まれる。咄嗟に伸ばした手はガイアが握り、そのまま転げ落ちた。にっこりと満面の笑みを残して……。
ガイアの居場所はイシス同様に感知できる。転移先で出現したらすぐに迎えに……そこで派手に舌打ちした。くそっ、大陸をまたいで移動したのか。
「ゲリュオン!」
トムを抱いて戻るゲリュオンが、異変を察知したらしく慌ただしく走ってくる。大柄な男に宿で待つよう伝えた。大陸を超えるなら、身軽な方がいい。
「俺も手伝うぞ」
「邪魔だ」
今はわずかでも早く助けに行きたい。森を抜けた火山まで一気に転移を掛け、無理やり結界を潜り抜ける。多少の擦り傷を負ったが、痛みも気にならなかった。侵入者だと騒ぐフェニックスの1羽に頼み、乗せてもらう。地続きの大陸ならば、一瞬で転移できたものを。
舞い上がる炎の向こうに広がる海を睨みつけ、オレは焦る気持ちを抑えるためにひとつ大きく息を吐いた。少しすると、同じようにこちらの大陸から舞い上がる強大な魔力を感じる。竜帝――まさかイシスか? 可能性はある。無自覚に父を呼んだのか。
そこへ飛び込んだのは、怖いと泣くイシスの声だった。ガイアが付いていてケガの心配はしないが、あの子は大人を怖がる。体の傷はなくとも、心に負った傷は些細なきっかけで開いてしまうだろう。
『ドラゴンの帝が動いたねぇ。飛ばすよ』
鳳凰の羽ばたきが強くなり、加速した。風を防ぎながらも気持ちはさらに前へ駆け出す。あの子が泣いているのに、移動に制限があるなど……絶対に撤廃してやる。神々のくだらない取り決めと制約を思い出し、オレは焦った。
イシスの腕輪は竜帝ファフニールが己の鱗から精製したものだ。大量の魔力を注ぎ作り上げたため、並みの魔物ならば近づけない。触れようとするのは、愚鈍な人間ぐらいだろう。たどり着いたのは、森に突き出た岩山だった。
『我が息子を返せ!!』
竜帝が炎のブレスを叩きつける。岩をどろどろと溶かす高温の中、続いて風を叩きつけた。割れた岩が崩れ始める。岩山には洞窟が掘られ、そこから人間が飛び出した。あの中にイシスがいるか、目を凝らすが見つからない。ガイアが一緒にいるなら、熱や風は通用しない。
岩山の高い位置から子供が飛び出てきた。イシスだ。ガイアと手を繋いだ子供は、大きく手を振った。無事だった……それだけで体の力が抜けてしまう。
『私も攻撃を仕掛けようか?』
「いや、ファフニールに任せよう。あの岩の上に下ろしてくれ」
くるくると回転しながら高度を落とした鳳凰は、オレを降ろすと甲高い声で挨拶を残して舞い上がった。帰りはファフニールに頼め、か? 何とでもなるさ。大切なイシスを抱き上げ、なぜか子供のように抱き着いたガイアを支えて、オレは安堵の息をついた。
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