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124.お土産話をしたよ
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「イ、イシス?!」
「なぁに?」
いきなり大きな声で話すから、びっくりしちゃった。あ、また垂れてる。セティが持ってる桃から垂れる汁を舐め取りながら、僕は首を傾げた。変なの。セティは真っ赤になるし、お父さんとお母さんは笑ってる。振り返るとトムは目を両手で覆ってるし、ボリスは食べかけの桃を牙に刺したまま止まってた。
待ってみたけど、誰も何も言わないからまた舐める。
「セティ、早く食べないと零れちゃうよ」
「あ、ああ」
そこから凄い勢いで桃を食べるセティ。やっぱりお腹空いてたんだね。零れちゃったの、恥ずかしかったのかな。ぺたんと両足を崩して座り、僕も桃をひとつ手に取った。
「ボリス、おいで」
呼ばれるまま、よたよた歩いたボリスの牙に刺さった桃を抜いて、舌の上に置き直した。刺さってると食べられないもん。
「気を付けて食べるんだよ」
ふふっ、僕お兄ちゃんっぽい。面倒見るのがお兄ちゃんだよね。鼻先を撫でると唸るボリスは、残った果物を食べながらちらちらと僕を見る。安心して。ちゃんとお兄ちゃん、ここにいるよ。手を振ると、尻尾を振り返してくれた。
『自覚がないのは凄い』
『このタイプは、落とすまでが大変だぞ』
お母さんとお父さんが話してる内容、何のことだろう。照れた顔でセティが文句を言ってるから、セティが噂されちゃったかな。くしゅん、くしゃみをひとつして、僕は鼻を啜った。ボリスが心配そうに顔を舐めてくれる。ふふっ、桃の匂いがするよ。
「ありがと、ボリス」
ぎゅっと抱きしめたら、なぜかセティに離されちゃった。トムが足元で抱っこをせがみ、拾い上げて袋に入れる。中でくるんと丸まって、鼻先だけ出して寝たけど……。気づくとトムは寝てるよね。
「イシス、土産話をするんじゃなかったのか?」
セティに言われて思いだした。そうだ、僕はお兄ちゃんとして弟のボリスに外の世界を教えるんだ。たくさん、いろんな人に会ってきたんだよ。お父さんとお母さんも一緒に聞くみたい。お父さんとお母さんが丸くなった真ん中にボリスが寝て、僕は目の前に座った。セティが隣で僕の黒髪を櫛で梳かし始める。
手を目一杯広げて亀の大きさを説明し、燃えてる鳥の凄さを話した。ボリスは目を輝かせて聞いてくれたし、お母さんも嬉しそう。お父さんがときどき僕を舐めた。さっき眠った時みたいに、みんなが一緒にいるの楽しい。
最後にフェルの話をして、毛皮が柔らかかったと言ったらボリスが喉を鳴らした。すぐにお母さんが『私達は毛皮がないからね』とボリスに説明する。ああ、そうか。僕が毛皮が好きだと思ったのかな。
「ちょうどいい。これを使え」
そう言ってセティは収納の部屋から、布袋を取り出した。大きな袋は見たことある。前にお母さんが捕まえた獲物の羽毛だった。柔らかい鳥の毛はふわふわと空を舞って、とっても綺麗だったよね。柔らかくて、温かくて、集めた白い毛を全部入れた。
グリフォンっていう動物のお腹や羽の毛が詰まった袋は、口がしっかり閉じられていた。セティが差し出した袋に寄り掛かると、頭や背中が埋まる。ずぶずぶと半分くらい沈んで止まった。
「柔らかい! ボリスもそっと……上手」
一緒にふわふわを体験して、抱き合って温かさを分け合った。ボリスは僕より少し冷たいけど、ぎゅっとしてると同じ温かさになる。しばらくして、ふかふかが潰れちゃった。振り返ると、トムがセティに叱られている。
「こらっ、爪を研いだら穴が開くだろ」
袋の反対側に大きな穴があって、トムが爪を差しちゃったみたい。慌ててセティからトムを受け取り、僕が頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……しょうがねえ。手伝え」
笑ったセティが許してくれた。セティと一緒に新しい袋に羽毛を入れ直す。ボリスも手伝ってくれたけど、また飛びつこうとしたトムがお母さんに捕まった。お口の中だけど、お母さんなら噛まないから安心だね。なんでトムは鳴いてるんだろう?
「なぁに?」
いきなり大きな声で話すから、びっくりしちゃった。あ、また垂れてる。セティが持ってる桃から垂れる汁を舐め取りながら、僕は首を傾げた。変なの。セティは真っ赤になるし、お父さんとお母さんは笑ってる。振り返るとトムは目を両手で覆ってるし、ボリスは食べかけの桃を牙に刺したまま止まってた。
待ってみたけど、誰も何も言わないからまた舐める。
「セティ、早く食べないと零れちゃうよ」
「あ、ああ」
そこから凄い勢いで桃を食べるセティ。やっぱりお腹空いてたんだね。零れちゃったの、恥ずかしかったのかな。ぺたんと両足を崩して座り、僕も桃をひとつ手に取った。
「ボリス、おいで」
呼ばれるまま、よたよた歩いたボリスの牙に刺さった桃を抜いて、舌の上に置き直した。刺さってると食べられないもん。
「気を付けて食べるんだよ」
ふふっ、僕お兄ちゃんっぽい。面倒見るのがお兄ちゃんだよね。鼻先を撫でると唸るボリスは、残った果物を食べながらちらちらと僕を見る。安心して。ちゃんとお兄ちゃん、ここにいるよ。手を振ると、尻尾を振り返してくれた。
『自覚がないのは凄い』
『このタイプは、落とすまでが大変だぞ』
お母さんとお父さんが話してる内容、何のことだろう。照れた顔でセティが文句を言ってるから、セティが噂されちゃったかな。くしゅん、くしゃみをひとつして、僕は鼻を啜った。ボリスが心配そうに顔を舐めてくれる。ふふっ、桃の匂いがするよ。
「ありがと、ボリス」
ぎゅっと抱きしめたら、なぜかセティに離されちゃった。トムが足元で抱っこをせがみ、拾い上げて袋に入れる。中でくるんと丸まって、鼻先だけ出して寝たけど……。気づくとトムは寝てるよね。
「イシス、土産話をするんじゃなかったのか?」
セティに言われて思いだした。そうだ、僕はお兄ちゃんとして弟のボリスに外の世界を教えるんだ。たくさん、いろんな人に会ってきたんだよ。お父さんとお母さんも一緒に聞くみたい。お父さんとお母さんが丸くなった真ん中にボリスが寝て、僕は目の前に座った。セティが隣で僕の黒髪を櫛で梳かし始める。
手を目一杯広げて亀の大きさを説明し、燃えてる鳥の凄さを話した。ボリスは目を輝かせて聞いてくれたし、お母さんも嬉しそう。お父さんがときどき僕を舐めた。さっき眠った時みたいに、みんなが一緒にいるの楽しい。
最後にフェルの話をして、毛皮が柔らかかったと言ったらボリスが喉を鳴らした。すぐにお母さんが『私達は毛皮がないからね』とボリスに説明する。ああ、そうか。僕が毛皮が好きだと思ったのかな。
「ちょうどいい。これを使え」
そう言ってセティは収納の部屋から、布袋を取り出した。大きな袋は見たことある。前にお母さんが捕まえた獲物の羽毛だった。柔らかい鳥の毛はふわふわと空を舞って、とっても綺麗だったよね。柔らかくて、温かくて、集めた白い毛を全部入れた。
グリフォンっていう動物のお腹や羽の毛が詰まった袋は、口がしっかり閉じられていた。セティが差し出した袋に寄り掛かると、頭や背中が埋まる。ずぶずぶと半分くらい沈んで止まった。
「柔らかい! ボリスもそっと……上手」
一緒にふわふわを体験して、抱き合って温かさを分け合った。ボリスは僕より少し冷たいけど、ぎゅっとしてると同じ温かさになる。しばらくして、ふかふかが潰れちゃった。振り返ると、トムがセティに叱られている。
「こらっ、爪を研いだら穴が開くだろ」
袋の反対側に大きな穴があって、トムが爪を差しちゃったみたい。慌ててセティからトムを受け取り、僕が頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……しょうがねえ。手伝え」
笑ったセティが許してくれた。セティと一緒に新しい袋に羽毛を入れ直す。ボリスも手伝ってくれたけど、また飛びつこうとしたトムがお母さんに捕まった。お口の中だけど、お母さんなら噛まないから安心だね。なんでトムは鳴いてるんだろう?
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