【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
110 / 321

109.早く育てよ?(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



 海は初めてだろう。弟への土産話を集めるなら、四聖獣を回るついでに寄ろうと決めていた。喜ぶイシスを波が打ち寄せる砂浜に連れて行く。潮の香りは独特で、イシスは臭いと感じたらしい。この子の感性は常識がないから面白いな。

「触ってみるか? ほら、あっちで子供が遊んでるだろう」

 安全だと示すために、少し離れた砂浜で遊ぶ子供を指さす。じっと見た後、イシスは波打ち際にしゃがんだ。恐る恐る手を伸ばす姿は、未知の海に対する恐怖と好奇心が滲む。指の先が触れると、びっくりした様子で尻餅をついた。

「指に臭いついちゃった」

 濡れた指先をくんくんと嗅ぐ。イシスの所作がまるで子猫みたいだ。声を出して笑い、オレは見本を示すことにした。靴を脱いで後ろへ放り、膝下まで裾を捲る。足首あたりまで水の中に入って振り返ると、驚いた顔をしたイシスがオレの顔を見る。微笑んで頷いた。

「僕も、いく」

 やたら緊張してるのが可愛い。靴を脱いで、それから裾を持ち上げて……ゆっくりと足を入れる。ぱしゃりと足首を濡らす水にビクビクしながら、こちらへ手を伸ばした。受け止めてやりながら、誘導する。ばっと両手を広げて抱き着いたイシスの頭を撫でた。

 この子は経験が少なすぎる。だから考えが幼い。それを好ましいと思うのに、いろいろ見せてやりたいと願う。そうしたら他の人間のように汚れて、醜く欲を露わにするかも知れない。恐怖は常に付き纏う。この子が変質したら、どこかへ預けるのだろうか。この手を離してやれるのか。

 目を潰し、耳を塞ぎ、オレの名しか呼べない暗闇に閉じ込めるかもな。そんな非道で残酷な想像をする男の手を取って、無邪気に笑うイシスが哀れで愛おしかった。美しく綺麗なものだけ見せて、大切に腕の中で守りたいのに、イシスの自由を奪うことに躊躇する。

 自分が奪われていた自由を望んで飛び出したくせに、イシスの前に広がる未来と自由を奪うのか――そう問われたら、オレは何も言えなかった。それが答えなのだろう。

 この子は闇より光が似合った。だから閉じ込めることは諦めよう。その分だけ大人の狡さを発揮しても許されるはずだ。イシスはオレに捧げられた贄なのだから。

「しょっぱい」

 目を離した隙に、イシスはさっき海につけた指を舐めたらしい。顔を顰める姿に、笑いが漏れる。オレが笑うとイシスも笑った。そんな細やかな出来事が嬉しい。

「べたべたするね」

 潮風が遊ぶ髪が頬にくっついて、イシスは不思議そうに呟いた。気づくことが多いのは感受性が強いからだ。この子の良さを潰さないよう、育てるのは大変だろうがやり甲斐があった。決してオレ以外を選ばないよう、優しく包んで愛情を擦り込む。

 背の羽を抜くことも切り落とすこともなく、いつでも羽ばたけるのにオレの腕に収まるよう。

「大好きだぞ、イシス」

「僕もセティが好き」

 にこにこ笑うこの子を曇らせないまま、透明の状態でオレ色に染める。神々を従えて頂点に立つ戦より楽しそうじゃないか。幸せそうに笑う子供の頬や額にキスを降らせて焦らすと、最後に唇を尖らせて待っている。その唇をそっと啄んで、何度も舐めて開かせた。

 絡めた舌を吸い上げると必死で呼吸しながら、両手を回して首に抱きつく。こんな可愛い贄を食わない理由がない。美味しく食べてやるから、早く育てよ?
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...