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107.狼さんはフェルに決まった
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目が覚めて、亀さんとさよならした。トムを入れた袋を抱っこして、右手をセティと繋ぐ。小山になった亀さんが見えなくなった頃、セティが指を笛みたいにして鳴らした。茂みを揺らして現れたのは、灰色の狼達。いっぱい集まってくる。
「いっぱいだね」
「集まりすぎた」
笑うセティの前に、他の狼よりずっと大きな狼が来た。みんなのお父さんかな。狼さんって呼んだ方がいいかも。じっと見つめると、やっぱり金色の綺麗な目をしていた。ぐるると喉を鳴らした狼さんが伏せて、鼻先を地面にくっつける。ぺたんと平らになった狼さんの牙は外にはみ出していて、すごく立派だった。
「大きい牙、凄い」
触りたいけど、人の口に勝手に触れたらやだよね。隣でセティが長い鼻の上を軽く撫でた。嬉しそうな狼さんが僕を見て、鼻を突きだしてくる。困ってセティを見ると頷くので、抱っこされながら鼻の上を撫でた。ここ、気持ちいいのかな。他の狼はお座りして見てる。
「オレの眷族の中でもっとも長生きしてる狼だ」
「お名前はあるの?」
「……そういや、つけたことなかった」
特に決まってないみたい。お名前がないと困るから、考えることになった。僕はあまり名前を知らないけど、セティはいろいろ知ってるから任せる。その間に近づいて、他の狼も撫でさせてもらう。時々、トムが入った袋を気にして匂いを嗅ぐ狼もいるけど、噛んだりしなかった。
みんな賢いんだよ。トムは唸ったり震えたりしていたけど、今は大人しい。袋の上から撫でると、ごろごろ喉を鳴らし始めた。ご機嫌は直ったかな。
「フェルでいっか」
狼さんが嬉しそうに尻尾を振る。ぶんぶん振るから、後ろの方で埃が舞い上がった。
「フェル」
名前を呼んだら、僕の顔をべろりと舐める。笑いながら抱き着いて、フェルの顔をいっぱい撫でた。毛がふさふさで柔らかいから、ぬいぐるみのフォンみたい。思い出して、セティにお願いした。フォンを出してもらい、フェルの目の前に見せる。
「これ、僕の大事なフォン! フェルに似てるんだよ」
くぅーんと鼻を鳴らす。伝わった! 嬉しくなってトムのことや、フォンをもらった日の話をした。フェルはずっと聞いてくれて、時々僕を舐める。近くにシートを敷いて座ったセティは、そんな僕達に優しい目を向けてくれた。
「ご飯を食べて移動しよう。フェル、悪いが乗せてってくれ」
フェルに頼みごとがあったから呼んだの? 僕が邪魔しちゃったかな。手招きするセティに近づいて、パンとお肉をお皿に並べる。肉はお父さんに分けてもらったから、たくさんあった。狼やフェルにも分けて、僕達の分は火で炙る。
新鮮なお肉は中が赤くても食べられるんだって。今日は表だけ焼いて、半分くらい生のまま食べた。血の味がするけど、思ったより柔らかい。塊肉が焼けたところから、セティがナイフで切っていく。僕はそれをパンに挟んで食べた。
足元でトムも肉を齧っている。トムって野菜は食べなくて、パンもあんまり食べない。肉しか食べなくてもいいのかな?
「塩と胡椒だけでも美味い」
「うん、美味しい」
塩と胡椒って、さっきセティが掛けてた魔法の粉みたいやつ? 白と黒できらきらしてた。お肉が美味しくなる魔法の粉だ。お腹がいっぱいになるまで食べて、残った分はフェルがペロッと飲み込んだ。フェルは体が大きいからたくさん食べるんだね。
「いっぱいだね」
「集まりすぎた」
笑うセティの前に、他の狼よりずっと大きな狼が来た。みんなのお父さんかな。狼さんって呼んだ方がいいかも。じっと見つめると、やっぱり金色の綺麗な目をしていた。ぐるると喉を鳴らした狼さんが伏せて、鼻先を地面にくっつける。ぺたんと平らになった狼さんの牙は外にはみ出していて、すごく立派だった。
「大きい牙、凄い」
触りたいけど、人の口に勝手に触れたらやだよね。隣でセティが長い鼻の上を軽く撫でた。嬉しそうな狼さんが僕を見て、鼻を突きだしてくる。困ってセティを見ると頷くので、抱っこされながら鼻の上を撫でた。ここ、気持ちいいのかな。他の狼はお座りして見てる。
「オレの眷族の中でもっとも長生きしてる狼だ」
「お名前はあるの?」
「……そういや、つけたことなかった」
特に決まってないみたい。お名前がないと困るから、考えることになった。僕はあまり名前を知らないけど、セティはいろいろ知ってるから任せる。その間に近づいて、他の狼も撫でさせてもらう。時々、トムが入った袋を気にして匂いを嗅ぐ狼もいるけど、噛んだりしなかった。
みんな賢いんだよ。トムは唸ったり震えたりしていたけど、今は大人しい。袋の上から撫でると、ごろごろ喉を鳴らし始めた。ご機嫌は直ったかな。
「フェルでいっか」
狼さんが嬉しそうに尻尾を振る。ぶんぶん振るから、後ろの方で埃が舞い上がった。
「フェル」
名前を呼んだら、僕の顔をべろりと舐める。笑いながら抱き着いて、フェルの顔をいっぱい撫でた。毛がふさふさで柔らかいから、ぬいぐるみのフォンみたい。思い出して、セティにお願いした。フォンを出してもらい、フェルの目の前に見せる。
「これ、僕の大事なフォン! フェルに似てるんだよ」
くぅーんと鼻を鳴らす。伝わった! 嬉しくなってトムのことや、フォンをもらった日の話をした。フェルはずっと聞いてくれて、時々僕を舐める。近くにシートを敷いて座ったセティは、そんな僕達に優しい目を向けてくれた。
「ご飯を食べて移動しよう。フェル、悪いが乗せてってくれ」
フェルに頼みごとがあったから呼んだの? 僕が邪魔しちゃったかな。手招きするセティに近づいて、パンとお肉をお皿に並べる。肉はお父さんに分けてもらったから、たくさんあった。狼やフェルにも分けて、僕達の分は火で炙る。
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足元でトムも肉を齧っている。トムって野菜は食べなくて、パンもあんまり食べない。肉しか食べなくてもいいのかな?
「塩と胡椒だけでも美味い」
「うん、美味しい」
塩と胡椒って、さっきセティが掛けてた魔法の粉みたいやつ? 白と黒できらきらしてた。お肉が美味しくなる魔法の粉だ。お腹がいっぱいになるまで食べて、残った分はフェルがペロッと飲み込んだ。フェルは体が大きいからたくさん食べるんだね。
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