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73.僕、お母さんだから

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 金色に見えた猫の毛は、よく見たら模様が入っていた。横に縞々で、薄かったり濃かったりする。不思議な模様だけど、すごく綺麗だ。

 膝の上に乗せると手を舐めてくれた。ふわふわで、気を付けないと潰しちゃいそう。背中を撫でると首を持ち上げるので、そこも撫でてみた。ぐるぐると聞いたことがない音がして、目を閉じて気持ちよさそう。

「気に入ったか?」

「うん。ふわふわ!」

「よかった。ご飯食べるから、ベッドに猫を置いておいで」

 今日は宿の人が来ないみたい。セティは収納のお部屋に手を入れて、串焼きを出した。あれは前の街で買ったお肉だ! 甘くてしょっぱいタレが美味しいやつ。大急ぎで子猫を両手で持ち上げる。落としたり転んだりしないように、ゆっくりベッドの上に下ろした。

「みゅー」

 声を上げて震える子猫が可哀想で、もう一度抱き上げる。両手の上に乗せたら子猫は目を閉じてしまった。

「どうした?」

「猫、寒いみたい」

「毛皮着てるから寒くないさ。フォンと一緒に置いてみろ」

 言われて、ベッドの枕元に座らせたフォンの隣に下ろした。フォンと枕の隙間に顔を突っ込み、子猫は動かなくなる。震えてないから寒くないよね。離れても気になって、椅子に座るまで何度も振り返った。

「ほら、こっちに座れ」

 いつもと違う位置に座ったセティの膝に乗った。この場所からベッドが見える。

「ありがとう」

「どういたしまして。ほら、気を付けて食べろ」

 子猫が見えるから安心して食べる。串から肉を取ってもらって、フォークであーんしてもらった。食べながら時々見ると、子猫は動かない。どこか行っちゃうのも心配だけど、動かなくても気になるな。

「イシス、ご飯が先だ」

「うん」

 セティがくすくす笑った。ご飯を食べている間は、フォンが子猫のお兄さんだ。ちゃんと面倒見てくれると思う。僕は出されたパンを千切って、一口目をセティの口に運んだ。二口目はもっと小さく切って自分の口へ。交互に運んで食べ終えた。

 肉も、果物も、出された皿の上はもう食べ物が残ってない。お腹いっぱいになってセティに寄り掛かったら、眠くなってしまった。

「寝るか?」

「ううん……僕、お母さんだから。猫のご飯……」

 あげないと、猫がお腹すいちゃう。僕だけ食べるなんていけない。まだ小さいんだもん。思うそばから、重くなった目蓋が塞がろうとした。ごしごしと目元を手で擦るが、セティの手がそっと止めた。

「オレが代わりにやっておくから、イシスは猫を温めてくれ」

 抱っこされてベッドに下ろされる。ひやっとしたシーツに、肩を丸めた。さっきの子猫もやっぱり冷たかったみたい。でもすぐに温かくなる。フォンへ手を伸ばすと、金の毛玉が動いて僕の首にすり寄った。擽ったいけど温かくて安心する。

 ちゃんと夜も寝たのに、どうして眠いんだろう。変なの。
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