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36.お嬢ちゃんじゃないけど

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 セティがいればいい。ご飯も我慢するし、甘い飴もなくていい。綺麗な服もいらないから……僕からセティをとらないで。

 願いながら目を開くと、神様はお願いを叶えてくれていた。にっこり笑うセティが、涙で滲んでいく。声が出なくてぎゅっと抱き着いた。同じように抱っこして、セティが背中を叩いてくれる。ぽんぽんと優しい感じが嬉しい。

「オレはイシスと一緒にいる」

 頷いて、ここが宿屋の部屋だと気づいた。いつ帰ってきたんだろう。いつも使っていた毛布に包まれて、セティに抱っこされる。

「セティ」

「どうした、イシス」

 ただ呼びたかった。声にしなかった心の中が聞こえたのか、セティが笑う。すごく嬉しい。僕は嫌われてない、セティと一緒にいられる。それだけで何もいらないと思った。

「ご飯食べるか? 今日は肉にしようか」

「うん」

 頷いて起こされた僕は、毛布の下で服を着ていなかった。寝ると服は解けちゃうんだろうか。前に着ていた薄い黄色の服はそんなことなかったけど。

 毛布から出た僕の体に、セティがうーんと唸る。それから赤、青、黒の服を取り出して当てて首をかしげた。服を売ってる人と同じことしてる。

「赤にする。手をあげて」

 両手を上にあげる仕草を真似すると、ばさっと上から被せられた。こうすると袖が通って一度で着られるんだね。セティはいろいろ知っててすごい。

 目を輝かせながら、ごろんと転がってズボンも履かせてもらう。こっちは黒だった。上と下の色が違う服を着てる人は、街の中で見た。あれと同じだ。首のボタンを留めてから太くて薄い紐で首を縛られた。

「何、これ」

「リボンだ。似合ってるぞ、髪も結ぼうか」

 白みたいなキラキラした色だ。絵本にはなかった初めての色だった。それを髪の毛の後ろで巻くと、きゅっと引っ張られる。なんだか変な感じだ。

「ご飯に行こう」

 そう言われて手を繋ぎ、いつもと同じ靴を履く。足の後ろが当たる場所が柔らかくなっていた。痛くないよ。顔を上げると「痛くないだろ?」とセティが片目を瞑る。大きく頷いて部屋の中を周り、セティの腰に抱き着いた。

「よし、外で食べるから歩くぞ」

「わかった」

 この靴は痛くないから平気。階段の横を通り過ぎ、入り口の店の人に手を振って外へ出た。空が赤い色で、とても綺麗。歩いている人は忙しそうで、でも楽しそうだった。手を繋いで歩いた先で広い道に出る。道のあちこちに机や椅子があって、人がたくさんいた。

「この場所は屋台ばっかりだ。買ってきたら、空いてる席に座って食べる。さあ、欲しいものを指差してみろ」

 言われて、くんと鼻を動かす。甘い匂いがする。そちらを向くと、大きな塊の肉を焼く店があった。あれが屋台? セティに連れられて店の前に立ち、買った物を受け取る。

「お嬢ちゃんは可愛いからおまけだ」

「おう、ありがとな。でも男の子だぞ」

「マジか!? でも可愛いからいいや」

 よくわからない会話をしたおじちゃんが手を振るので返した。笑ってくれてるから、きっとおじちゃんも嬉しいんだろう。次のお店はじゅーって音がする四角い塊を買い、隣でお芋を買った。反対側から大きな声で呼ぶ人がいて、振り返ると手招きされた。炊き飯というバラバラの茶色い何かに、焼いた肉を乗せたのを勧められ、セティが頷いて金属のお金を払った。

 買いすぎたと笑うセティと一緒に、譲ってもらった席に座る。たくさん並んだ料理に、お腹がぐぅと変な音を立てた。
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