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31.何も言わない約束

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 大きな家は、扉が3つあった。目の前に階段があって、ひとつずつ両足を揃えて登っていたら、セティに抱っこされる。首にしがみついて見上げた。

「中で何も言わない、約束できるか?」

 約束は絶対で、破ったらダメ。だから頷いた。たぶん、もう話さない方がいいよね。僕の考えが聞こえたのか、セティがにっこり笑ってくれた。

「少し怖いけど我慢しろ。心で呼んだら聞こえるから」

 怖い? セティが怖い声になったのは、僕が袋に入れられた時だけ。だから僕に怖い声で話したことはない。平気、セティが僕を嫌いじゃなければ我慢できるよ。

 首に回した手に力を入れて頷いた。セティがひとつ大きく息を吐き出した。ぶわっと冷たくなって……高さが違う。セティが大きくなったみたい。抱っこする腕も太くなったみたいで、座りやすくなった。

 見つめる先で、セティの整った顔に何か絵が出た。頬とか目の周りに何か描いてあるの? 伸ばした手でゆっくりなぞるが、凸凹していない。手に色もつかなかった。赤と青の色が混じったりしながら、綺麗な模様になっている。

「きれぇ」

 思わず声を出してしまい、慌てて手で押さえた。声はダメ、約束だから。そうしたら、セティがくすくす笑った。首に回した手に触れる髪が揺れる。

「後でいくらでも触らせてやる」

 これも約束だ。笑いながらセティの頬に頬をくっつけた。足を止めていたセティが歩くと、後ろにひらりと揺れる服が見える。着替えたのかな。裾の長い服は黒かった。

 セティの肩に顎を乗せて後ろを見ると、何人もの人が膝をついてお祈りしている。黒髪が長く足元まであって、びっくりした。

 階段を登り終えると、中央の扉に手をかざす。僕も振り返って扉を見た。押しても開かないと思う。とにかく大きくて、セティの何倍もあった。重いはずの扉がすっと開いていく。後ろで悲鳴や祈りの声が響いて、首をすくめた。

 あの人達、すごい驚いてる。自分が驚くのを忘れそう。開いた扉の中には、数人の白い服の人がいた。怖い、反射的にそう思ったけど……なぜか外の人みたいに膝をついて伏せる。僕に手をあげたりしないし、怒鳴ったり叫んだりもしない。姿もちゃんと見せていた。

 変なの……ぐるりと家の中を見る。屋根が高くて、穴が開いてる? 外の光が入っていた。両側には綺麗な人がいっぱい描いてあって、絵本みたいだ。赤、青、緑、黄色……知っている色を数えていく。黒……紫! 僕とセティの色があった。

「荒ぶる神タイフォン様に栄光あれ」

「ご降臨に感謝申し上げます」

 口々に何か難しいことを言う。セティは無視して真っ直ぐに中に入った。床には絨毯があって、正面にセティの絵がある。大きくて扉みたいな感じの板に、セティが描いてあった。その前に椅子がある。

 3つしかない階段を登り、セティは無言のまま椅子に座る。この椅子、横に広くて3人くらい座れそう。僕はどうしたらいいのかな。膝に乗せられたまま、セティを見上げた。
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