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11.明日もいてくれるといいな

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 食べている間に「猫舌」とは熱いご飯でケガする人だと教えてもらった。わかったと頷けば、いい子だと頭を撫でてもらえる。これも新しく覚えた。あとはキスの時に舌の上のひりひりも治してもらったこと。冷ました食べ物は痛くないことも知った。僕はいままで冷たい食べ物しか知らなかったから、驚いたんだ。

 ゆっくり噛み締める肉は、顎が疲れる。温かいのより、もっと熱い感じで噛むと汁が出た。こんな食べ物初めてだ。たまにスープに入ってた塊より、ずっと大きかった。

「ん……もしかして固形物はダメか」

 いつまでも口を動かして飲み込めない僕の姿に、セティが困ったような顔をする。眉の外側がへたりと垂れて、なんだか悪いことをした気分だ。慌ててごくんと飲み込んだ。まだ味がするからもったいなかったけど、セティにそんな顔させたくない。

「この大きさならいいかな」

 小さく小さく、セティが食べ物を分ける。スプーンやフォークという道具を両手に持たされたけど、一度も使ってなかった。これでセティみたいに食べ物を切ったり刺したりして食べるのは、まだ難しい。あーんの合図で口を開けると、今度はすぐに噛み終わった。

 食べ物がばらばらになったら飲み込む。ゆっくり時間をかけて食べる間に、セティは皿に残った食べ物を自分の口に放り込んだ。僕も上手になったら、あーんをしよう。僕が嬉しくなることは、セティも喜んでくれるから。

 いつもよりたくさん食べたから、すぐに眠くなった。ごしごしと目元を擦ると、慌てたセティがスプーンやフォークを片付ける。僕の手から取られた銀の道具は机に置かれた。こうしてみると、きらきらして綺麗だな。ぼんやり眺めていると、セティに抱っこされる。

「さっきの部屋で寝よう。疲れただろ」

 僕は歩いてないし、食べ物で顎が痛いくらいで何もしてない。なのに、すごく眠かった。疲れるって、眠くなること……かも。セティが何か言って立ち上がる。聞いたことがない言葉だ。さっき食べ物やお水を持ってきてくれた甲高い声の人も、知らない言葉だった。

 ベッドのある部屋に戻って、僕は無意識に足首に手をやった。長さが足りないと転んじゃう。たまに短いまま忘れられることがあって……触った足首に何もないので目で確かめる。ああ、そうか。セティが取ってくれたんだ。ほわりと顔が崩れて、そのままベッドに横になった。

 明日もセティがいてくれるといいな。



 夜中に怖くなって目を開く。外から明かりが入っていて、僕はそちらを見た。知らない場所……どうしよう。ベッドを降りようとした腰に、手が絡みついて引き戻された。

「……どうした? 便所か」

 セティの声に、怖さが消えていく。なんだ、ここにいたんだ。僕の後ろにいたんだね。くるりと反対を向いてぎゅっと抱き着いた。手を叩かれたり喚かれることはなくて、温かい毛布に包まれて腕に引き寄せられて目を閉じる。

 よかった。僕まだ1人になってない。お気に入りの毛布を鼻先に持ってくると、いつもの匂いがして落ち着いた。セティは朝までいてくれる――そう思ったらまた眠くなる。怖いのも、セティがいれば平気。そう思ったのが最後で、僕はなんだか温かい夢を見た。
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