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34.どちらも女性の方が鈍感なようで

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 朝起きて部屋を掃除し、食事。午前中に勉強を済ませ、軽食を食べながら午後のプランを立てる。これが日常化したのは、街に引っ越して一カ月も経つ頃だった。

 急いでくれたようで、アイカのベッドはすぐに納品される。ブレンダの分も、今日運ばれてくる予定だった。なぜか手伝いにトムソンが駆けつけ、ご近所への引っ越しを告げられた。

「トム爺さん、家を買ったの?」

「いや、借りたんじゃよ。親戚がおるでな」

 狼の親戚が狼とは限らない。巨大鹿の親が牛と馬だから。アイカもかなり常識を学んだ。中級を終わらせて、もうすぐ上級編へ突入するところだ。

 分厚い本も読み始めると夢中になる。なにしろ、常識がかなり違っていた。そこに加え、暮らし始めて実感した違いの理由が、克明に記されているのだ。読むほどに「なるほど」が増えていくのは楽しかった。

 レイモンドは中級が終われば、教師役は御免になるらしい。だが個人的にオレンジ達に会いに来る宣言をした。ブレンダはニヤニヤしていたけど、意味が分からない。

 ほぼ毎日遊びに来るトムソンは、ちまちまとブレンダの手伝いをする。その様子に、さすがの彼女も何か思い至ったらしい。この頃は庭で一緒に昼寝をしたり、毛繕いをする姿が見られるようになった。

 こっそり覗くアイカが「お似合い」と呟く。その後ろで、必死に隠れようとするレイモンドが「確かに」と返す。

「ちょ、レイモンド。バレちゃうから」

「だが、俺も見たい」

 伏せたレイモンドの背中に飛び乗り、頂上まで辿り着いたオレンジが絶叫した。

 あ゛おぉおお!

「あ、見つかった」

 猫の仕業なので、誰も怒らない。苦笑いしたブレンダと真逆で、トムソンは恥ずかしそうに蹲った。狼のごめん寝スタイルである。

 尻尾も綺麗に敷き込んだトムソンの照れ具合に、釣られたレイモンドが赤面する。と言っても色が変わるのは鼻先くらいだ。

「午後はどうするのだ?」

「今日は予定がないから、寝てようかと思って」

「また夜に目が冴えるぞ」

「じゃあ、お買い物に行こうかな。食料品とか」

 雑談しながら、アイカは足元のブランを抱き上げる。レイモンドの背に飛び乗ろうとして失敗し、「なんでもないですよ」と誤魔化しながら毛繕いしていたのだ。持ち上げてやれば、すぐにレイモンドの背を登り始めた。

「爪、痛くない?」

「ああ、問題ない」

 けろりとしたレイモンドに痛がる様子はないので、アイカはブレンダを振り返った。

「買い物してくるわ」

「頼んだよ、猫は見ておくから」

 軽く手を振って庭の外へ出た。大通りまで少し歩く。けれど、立地条件は素晴らしかった。大通りから下がった場所は静かだが、買い物は便利なのだ。

 猫を任せたアイカは、後ろをついてくるレイモンドに首を傾げた。

「どうしたの?」

「いや、荷物持ちくらいできるかと思ってな」

「ふーん、じゃあお願いね」

 使えるものは猫でも使う。アイカはにっこり笑って前を向いた。その後ろで、レイモンドは真っ赤になった鼻を隠すように翼で覆う。毎度のやり取りを微笑ましく見守る、近所のウサギの奥さんは「竜王様にもようやく春が来たねぇ」と揶揄う。

 きょとんとした顔のアイカに通じていないのが、いいのか悪いのか。
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