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31.寝不足を店頭で解消する
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朝起きたブレンダとアイカは顔を見合わせ、大きく頷く。朝一番ですること、顔を洗って着替えたら家を飛び出した。まだ店は開いていないんじゃないかと心配するアイカをよそに、ブレンダは閉ざされた店の扉を派手に叩く。
ダンダダダダン! 両手で叩くブレンダは、片足を後ろに引いていた。これって太鼓叩く人みたい。そんな感想を抱きながら、アイカは見守った。
「はいはい、今開けるよ……おお、ブレンダじゃないか」
馴染みの店主は怒りもせず開け放った。挨拶しながらずかずかと入り込むブレンダが、ベッドのスプリングコーナーへ直行する。ぺこぺこと頭を下げつつ、アイカも付いて行った。
「どうしたんだ? 引っ越したばかりだろ」
その声に、疲れて寝てると思ったが? という店主の疑問が滲む。ちなみに店主はリスの獣人で、身長120センチ前後と可愛らしかった。中身はおじさんだし、リスとして考えたら巨大なのだけど。
「引っ越したばかりだから来たんだよ。ベッドのスプリングだけ、すぐ納品しておくれ」
ブレンダは直球で用件を告げると、並んだマットのスプリングを試し始める。
「そこのお嬢さん、こっちに座りな。ああなったらブレンダは止まらない」
怒るどころか、明るく笑い飛ばしたリス店主マークはアイカを手招きした。冷たい水を入れたコップを置き、商品のテーブルセットに座らせた。向かいに自分も腰掛け、マークは疑問をぶつける。
「ところで、ベッドに何かあったのか?」
「用意されたスプリングが合わなくて、二人とも寝不足なの」
説明するアイカに、なるほどとマークは頷いた。そんな店主の巨大リス尻尾に釘付けのアイカは、手を伸ばしそうな自分を戒めていた。
前回ベッドを注文して、まだ二度目なのに尻尾に触るのはマズいよね。親しくならないと。そんなアイカの葛藤を知らない店主は、ぽんと手を叩いた。
「そうそう、お嬢ちゃんのベッドは明日納品できるよ」
「明日?! 助かった」
今夜我慢すれば、明日は熟睡できる。そんな安堵の表情を見た店主が、肩をすくめた。
「寝れてないなら、ここで昼寝していくといいさ」
「え? そんなの、嬉しすぎる」
いいんですか? 商売の邪魔でしょう。本音と建前が逆になったアイカは、はっと手で口を塞ぐ。だが飛び出した本音は、マークの笑いを誘った。
「別に構わない。うちは注文販売だし、そもそも店頭の家具は試してもらうのが前提だ」
だから客が来ると、テーブルセットでもてなす。アイカはその言葉を、額面通り受け取っていいか迷った。振り返った先で、ブレンダは気に入ったマットに倒れ込んでいる。たぶん、熟睡している。
「上掛けを持ってきてやるか」
笑うマークの好意に甘えようとして、アイカは我に返った。
「猫の餌! 帰らないと!!」
「猫……本物を飼ってるんだっけ? よかったら連れておいで」
「そんなに甘えるのは……」
「甘えられるうちに享受しておくのが、賢い生き方さ。ほら、早く」
なぜか急かされ、アイカは猫達を迎えに帰った。急ぎすぎて、玄関を施錠していない。机の上の鍵を手に、しっかり施錠してからキャリーに入れた猫と店に戻った。この頃には、街の店舗も営業し始めている。
遠慮がちに猫達を店に放ったアイカは、店主マークの姿にドン引きした。
「うわぁ! 本物だ、本物の猫ぉ!!」
大興奮でブランを追い回し、オレンジに猫パンチを食らう。それも嬉しいようで、パンや肉を差し出しながら床に寝そべって猫を堪能した。怯えてキャリーの中で過ごすノアールを抱っこし、アイカは奥のマットに寝転んだ。
お昼まで……期限を決めて目を閉じる。一瞬で寝落ちした。
ダンダダダダン! 両手で叩くブレンダは、片足を後ろに引いていた。これって太鼓叩く人みたい。そんな感想を抱きながら、アイカは見守った。
「はいはい、今開けるよ……おお、ブレンダじゃないか」
馴染みの店主は怒りもせず開け放った。挨拶しながらずかずかと入り込むブレンダが、ベッドのスプリングコーナーへ直行する。ぺこぺこと頭を下げつつ、アイカも付いて行った。
「どうしたんだ? 引っ越したばかりだろ」
その声に、疲れて寝てると思ったが? という店主の疑問が滲む。ちなみに店主はリスの獣人で、身長120センチ前後と可愛らしかった。中身はおじさんだし、リスとして考えたら巨大なのだけど。
「引っ越したばかりだから来たんだよ。ベッドのスプリングだけ、すぐ納品しておくれ」
ブレンダは直球で用件を告げると、並んだマットのスプリングを試し始める。
「そこのお嬢さん、こっちに座りな。ああなったらブレンダは止まらない」
怒るどころか、明るく笑い飛ばしたリス店主マークはアイカを手招きした。冷たい水を入れたコップを置き、商品のテーブルセットに座らせた。向かいに自分も腰掛け、マークは疑問をぶつける。
「ところで、ベッドに何かあったのか?」
「用意されたスプリングが合わなくて、二人とも寝不足なの」
説明するアイカに、なるほどとマークは頷いた。そんな店主の巨大リス尻尾に釘付けのアイカは、手を伸ばしそうな自分を戒めていた。
前回ベッドを注文して、まだ二度目なのに尻尾に触るのはマズいよね。親しくならないと。そんなアイカの葛藤を知らない店主は、ぽんと手を叩いた。
「そうそう、お嬢ちゃんのベッドは明日納品できるよ」
「明日?! 助かった」
今夜我慢すれば、明日は熟睡できる。そんな安堵の表情を見た店主が、肩をすくめた。
「寝れてないなら、ここで昼寝していくといいさ」
「え? そんなの、嬉しすぎる」
いいんですか? 商売の邪魔でしょう。本音と建前が逆になったアイカは、はっと手で口を塞ぐ。だが飛び出した本音は、マークの笑いを誘った。
「別に構わない。うちは注文販売だし、そもそも店頭の家具は試してもらうのが前提だ」
だから客が来ると、テーブルセットでもてなす。アイカはその言葉を、額面通り受け取っていいか迷った。振り返った先で、ブレンダは気に入ったマットに倒れ込んでいる。たぶん、熟睡している。
「上掛けを持ってきてやるか」
笑うマークの好意に甘えようとして、アイカは我に返った。
「猫の餌! 帰らないと!!」
「猫……本物を飼ってるんだっけ? よかったら連れておいで」
「そんなに甘えるのは……」
「甘えられるうちに享受しておくのが、賢い生き方さ。ほら、早く」
なぜか急かされ、アイカは猫達を迎えに帰った。急ぎすぎて、玄関を施錠していない。机の上の鍵を手に、しっかり施錠してからキャリーに入れた猫と店に戻った。この頃には、街の店舗も営業し始めている。
遠慮がちに猫達を店に放ったアイカは、店主マークの姿にドン引きした。
「うわぁ! 本物だ、本物の猫ぉ!!」
大興奮でブランを追い回し、オレンジに猫パンチを食らう。それも嬉しいようで、パンや肉を差し出しながら床に寝そべって猫を堪能した。怯えてキャリーの中で過ごすノアールを抱っこし、アイカは奥のマットに寝転んだ。
お昼まで……期限を決めて目を閉じる。一瞬で寝落ちした。
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