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第二十二章 世界の色が変わる瞬間

第106話 ドラゴンは臆病だったらしく(2)

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「ジルもありがとう。雪竜が見られてよかった」

 褒めると嬉しそうに頷く。歩きづらい雪を踏みしめながら近づいて、ジルを撫でてやろうとしたが……膝まである雪に足を取られて転んだ。

「うわっ」

「おっと! これは役得」

 余計な一言が聞こえたが、ジルが受け止めてくれた。おかげで雪に埋もれた状態にならずに済んだが、抱き締めた手が離れようとしない。撫でるつもりだったのに、背中を撫でる手が温かくて体の力が抜けた。

 視線を上げると美しい銀のドラゴンと、神々しい半透明の白いドラゴンが困惑顔で立っている。強者に捕まったものの、どうやら戦わずに済みそうだと尻尾をゆらゆら動かした。見た目の表情は変わらないが、感情豊かな魔物らしい。

「尻尾を叩きつけるのは攻撃の意思だよ」

 簡単な説明をしながら、ドラゴンが見やすいように姿勢を直してくれたジルに頷く。彼の長い黒髪が風に巻かれて、まるで闇に包まれたみたいに感じた。

「……お邪魔だったかしら」

 ライラの声にびくりと肩を揺らして、ジルを突き飛ばす。後ろにひっくり返ることなく、堪えた男が大人げなく唸った。

「くそっ、また邪魔しやがって」

「大人げない男は嫌われてよ?」

 大災厄と呼ばれたジルを相手に一歩も引かず、顎を反らして反撃態勢である。気の強い狐が威嚇するような姿に、ルリアージェがくすくす笑い出した。

「どうしたの?」

 不思議そうなジルの声に「だって、ライラが狐みたいで……威嚇して……ふふっ」と笑いを堪えながら呟くが、自分のセリフでまたおかしくなった。楽しそうなルリアージェだが、頬が赤くなっている。気づいた魔性達は目配せして、背後の洞窟へ転移した。

「……っ、びっくり、した」

 驚きすぎて笑いが引っ込んだルリアージェは、洞窟の外を見やる。ドラゴン達の姿はもう見えない。こちらが消えた時点で、慌てて引き上げただろう。

「リア、寒くない?」

「いや」

「本当なの? 頬が赤いわ」

 心配そうにライラが近づく。人がいない地域だからか、ルリアージェの翼同様に彼女も狐尻尾を外に出していた。軽い精霊の特性を知っているので、ひょいっと引き寄せて抱っこする。

「触ってみろ、熱はないぞ」

「……あら本当。熱くないわね」

 頬に手を当てて、ライラが大きな目をぱちくり瞬かせた。その姿が狐や猫に見えて頬ずりする。外の空気に触れて冷えているかと思ったが、彼女も精霊を連れているため温かかった。

「オレは不利だ……尻尾があればよかったのか?」
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