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第二十二章 世界の色が変わる瞬間

第104話 あちらの魔物はいかがでしょう(1)

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 驚くべき巨体の主は、意外と小心者だった。

「……拍子抜けした」

 思わず口に出したルリアージェの隣で、ジルが肩を竦める。怯えた様子で距離を置こうとするドラゴンは、見上げる大きさだった。竦めた首を伸ばせば、3階建ての建物と同じくらいある。しかし手足を縮こませ、震えながら「くひぃい」と情けない悲鳴をあげていた。

 物語に描かれたドラゴンは大きな口で威嚇し、炎を吐いたり氷を飛ばす。国の戦士や騎士が総動員されて戦い、魔術師が何人も犠牲になってようやく倒せる存在だと記されていた。そのためもっと強いイメージなのだ。

「オレ達の強さがわかるんだから、それなりに年長のドラゴンだぞ」

 無難な種類から見に行こうと提案したルリアージェに従い、大人しそうな木竜を探した。身体は大きいが草食で臆病という謳い文句に誘われて、巨木の多い森に降りる。

 大木の根元で葉っぱや枝を食んでいたドラゴンは、突然現れた強者の存在に動けなくなっていた。可哀想になったルリアージェが溜め息を吐く。

「別のドラゴンを見に行こう」

 魔物が多く危険すぎる大陸は、海で難破して流れ着く状況でなければ、人族が立つことはないだろう。

 もしかしたら人族でこの大陸に立ったのは、ルリアージェが最初かも知れない。大陸の間を移動するような高性能の船は、いまだ人族の手が届かない夢だった。そのため別大陸があることは知りつつも、誰も冒険に出かける状況にない。

 魔性達の転移魔法陣で訪れたルリアージェは、物珍しさに質問が止まらなかった。

「あれはなんだ?」

「サリアの木ね。蔦がたくさんあるでしょう? あれは寄生木やどりぎの一種で小型の魔物を捕食するの。その死骸をサリアが肥料として吸収するから、共存共栄ね」

 美しい白い幹を持つサリアが立ち並ぶ森は、まるで雪で作った人工物のようだった。その木に絡みつく赤い蔦が毒々しい反面、不思議な美しさがある。魅せられたルリアージェは、近くにいる角が生えた兎に気づいた。

「あの兎は?」

「ホーン・ラビットだ。角を軸に突進してくるんで、意外と厄介だぞ。茂みの中から足を狙ってくる」

 兎なのに肉食なのも、魔物らしい特徴だった。人族が住む大陸の兎は草食で、大人しい動物だと認識されている。知識がない人族がこの大陸に降り立ったら、まっさきに餌食にされそうな魔物だった。毛皮は全体に茶色系が多いようだ。

 数匹がこちらを見ているが、襲ってくる様子はない。念のために結界を張ったリオネルだが、気配に気づいて顔を上げた。
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