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第二十一章 寿命という概念
第97話 白日に晒す痛み(3)
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傍観者たるレンが彼女に構う姿で違和感を覚えたリオネル。リシュアは出会った瞬間、ライラもサークレラに入国する前に気づいた。パウリーネはジルの城で狂わぬルリアージェの異常さに感づいた時。誰もが気づいて黙っていたのだ。
ジルの城は時間が狂っている。人の世界の10年がわずか数日に感じられるほど、魔性であっても感覚の違いに違和感を覚える。その空間で長く過ごしたルリアージェの時間感覚は、精神的に作用するはずだった。しかし彼女は平然としていた。
「違和感を持ったのは出会いから。確信したのはアズライルを呼び出した時だ」
封印が解けたとき、目の前で崩れ落ちたルリアージェに初めて触れた。肩を抱きとめた瞬間に流れ込んだ情報は多く、しばらく眩暈を耐えて立ちすくむ。あの時は違和感の正体がわからなかった。
すこしして彼女が『人族』に分類されると気づいて、鎖の封印を探す。鎖が縛る対象は時間の流れだけでなく、関係する者のすべてだった。魔力や生命力、成長や心まで含まれる。魔性が幼いまま成長しないのと同じように、ルリアージェも時の流れから切り離された。
どれだけ生きようと、老いることはない。
アティン帝国、最後の皇帝なら喜んだだろう。神族を虐殺した男が切望した不老長寿を、意図しない状況でルリアージェは得てしまった。彼女の性格を考えれば、そんなこと望んだりしないとわかる。だから言えなくなった。
「リアの寿命はわからない。老いることなく、神族のように長く生きるけど……」
ごめんと謝ろうとして声を飲み込んだ。そんな謝罪が通用する次元じゃない。俯いたジルの前に立つルリアージェは、握りしめていた拳を解いた。爪が食い込んだ手のひらをじっと見つめ、それからジル、ライラ、リシュア、リオネル、パウリーネを順番に視線で追う。
「ジル」
大切な人の名を呼ぶが、彼は肩を震わせて俯いたまま。かつて大切な子を亡くしたジルは、己の中に流れる血を疎んでいた。リアーシェナを殺した血を、迷いながら私の治療に使ってくれた。その時点で責められる覚悟はあったのだろう。
だから告白しなかった。好きだと口で言いながらも、本心を隠し続けたのだ。
近づいて手を伸ばし、震える白い手を掴んだ。握り返されることがなくても自分が握ればいい。自分勝手に押し付ける考えを、いつだって肯定してくれた男が怯えていた。
魔王を退けて不敵に笑う実力者が、女一人に嫌われることを恐れて顔も見れない。なんて愚かで、身勝手で……本当に愛おしい。哀れで醜く、どこまでも透き通った恋心がむき出しで泣いている。
「ジル、顔をあげて」
「っ……」
断れないと知っている願いを突きつけ、笑顔で待った。ゆっくりと焦れる速度で顔をあげたジルが息を飲む。驚きに見開かれる紫水晶の瞳に、自分が映っているのが嬉しかった。
ジルの城は時間が狂っている。人の世界の10年がわずか数日に感じられるほど、魔性であっても感覚の違いに違和感を覚える。その空間で長く過ごしたルリアージェの時間感覚は、精神的に作用するはずだった。しかし彼女は平然としていた。
「違和感を持ったのは出会いから。確信したのはアズライルを呼び出した時だ」
封印が解けたとき、目の前で崩れ落ちたルリアージェに初めて触れた。肩を抱きとめた瞬間に流れ込んだ情報は多く、しばらく眩暈を耐えて立ちすくむ。あの時は違和感の正体がわからなかった。
すこしして彼女が『人族』に分類されると気づいて、鎖の封印を探す。鎖が縛る対象は時間の流れだけでなく、関係する者のすべてだった。魔力や生命力、成長や心まで含まれる。魔性が幼いまま成長しないのと同じように、ルリアージェも時の流れから切り離された。
どれだけ生きようと、老いることはない。
アティン帝国、最後の皇帝なら喜んだだろう。神族を虐殺した男が切望した不老長寿を、意図しない状況でルリアージェは得てしまった。彼女の性格を考えれば、そんなこと望んだりしないとわかる。だから言えなくなった。
「リアの寿命はわからない。老いることなく、神族のように長く生きるけど……」
ごめんと謝ろうとして声を飲み込んだ。そんな謝罪が通用する次元じゃない。俯いたジルの前に立つルリアージェは、握りしめていた拳を解いた。爪が食い込んだ手のひらをじっと見つめ、それからジル、ライラ、リシュア、リオネル、パウリーネを順番に視線で追う。
「ジル」
大切な人の名を呼ぶが、彼は肩を震わせて俯いたまま。かつて大切な子を亡くしたジルは、己の中に流れる血を疎んでいた。リアーシェナを殺した血を、迷いながら私の治療に使ってくれた。その時点で責められる覚悟はあったのだろう。
だから告白しなかった。好きだと口で言いながらも、本心を隠し続けたのだ。
近づいて手を伸ばし、震える白い手を掴んだ。握り返されることがなくても自分が握ればいい。自分勝手に押し付ける考えを、いつだって肯定してくれた男が怯えていた。
魔王を退けて不敵に笑う実力者が、女一人に嫌われることを恐れて顔も見れない。なんて愚かで、身勝手で……本当に愛おしい。哀れで醜く、どこまでも透き通った恋心がむき出しで泣いている。
「ジル、顔をあげて」
「っ……」
断れないと知っている願いを突きつけ、笑顔で待った。ゆっくりと焦れる速度で顔をあげたジルが息を飲む。驚きに見開かれる紫水晶の瞳に、自分が映っているのが嬉しかった。
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