276 / 386
第十七章 迷宮という封印
第70話 鈍さと純粋さは最強の武器らしい(2)
しおりを挟む
「リア、何かされなかった?」
「触れられてたら清めますわよ」
ライラとパウリーネが心配そうに近づく。しかし後ろから抱き着いたジルが、ライラを近づけなかった。触れようとする彼女の手を掻い潜って、ルリアージェを引き寄せる。
「ちょっ……ジル! いい加減になさい。そんな狭量じゃリアに嫌われるわよ!」
「リアはそんな酷いことしないよな?」
「捨てられてから後悔すればいいわ」
ふんと鼻を鳴らして怒りをぶつけるライラに、ジルは舌をべっと見せて子供じみた所作で応戦している。
「……捨てる気はないが」
溜め息をついたルリアージェは、複雑な心境で彼らの幼いケンカを見守る。万が一にもジルを捨てたら、彼は何を仕出かすか。それこそ世界を滅ぼしかねない。そこまで執着されている自覚はあった。だから捨てるという選択肢はないのだ。
首にかけたチェーンの鍵を手にとって見つめた。曇りのない銀色は何の金属だろうか。銀ならば人の手が触れれば曇るものだし、触れなくても色が黒ずんでくる。しかし鍵に刻まれた文様も含め、細部まで美しい光を放っていた。
肩に乗った炎龍も一緒に覗き込むのを、撫でてやってからブレスレットの水晶の中に戻した。
「ジル様」
姿を消していたリオネルが影から現れると、ジルの耳元で何かを告げた。一瞬だけジルの顔が苛立ちに歪むが、ルリアージェの視線に気付いて笑みを作る。
「どうした?」
「……もう少し状況がはっきりしたら説明するから待ってて」
不思議と誤魔化されたとは思わなかった。以前のジルなら「リアには関係ない話だよ」と言いながら、別の話題に誘導しただろう。しかし今回は「今は話せない」と告げたに過ぎない。後で説明すると言うのなら、待てばいい。
「わかった」
納得したルリアージェにライラが溜め息を吐いた。
「この男に甘い顔をしていたら、いつか食べられちゃうわよ。リア」
「神族や魔族は人を食べるのか?」
初めて聞いたぞと無邪気に尋ね返すルリアージェの純粋さに、ライラは逆に赤面して「違うわ、あたくしは人食いなんてしないわよ」と必死に否定する。首をかしげるルリアージェに悪気はなく、見ていた魔性達はくすくす笑い出した。
鈍い主をもつと、恋愛すらままならない――苦笑いする最強の魔性が絶対に勝てない美女は、表情をふわりと和らげた。
「触れられてたら清めますわよ」
ライラとパウリーネが心配そうに近づく。しかし後ろから抱き着いたジルが、ライラを近づけなかった。触れようとする彼女の手を掻い潜って、ルリアージェを引き寄せる。
「ちょっ……ジル! いい加減になさい。そんな狭量じゃリアに嫌われるわよ!」
「リアはそんな酷いことしないよな?」
「捨てられてから後悔すればいいわ」
ふんと鼻を鳴らして怒りをぶつけるライラに、ジルは舌をべっと見せて子供じみた所作で応戦している。
「……捨てる気はないが」
溜め息をついたルリアージェは、複雑な心境で彼らの幼いケンカを見守る。万が一にもジルを捨てたら、彼は何を仕出かすか。それこそ世界を滅ぼしかねない。そこまで執着されている自覚はあった。だから捨てるという選択肢はないのだ。
首にかけたチェーンの鍵を手にとって見つめた。曇りのない銀色は何の金属だろうか。銀ならば人の手が触れれば曇るものだし、触れなくても色が黒ずんでくる。しかし鍵に刻まれた文様も含め、細部まで美しい光を放っていた。
肩に乗った炎龍も一緒に覗き込むのを、撫でてやってからブレスレットの水晶の中に戻した。
「ジル様」
姿を消していたリオネルが影から現れると、ジルの耳元で何かを告げた。一瞬だけジルの顔が苛立ちに歪むが、ルリアージェの視線に気付いて笑みを作る。
「どうした?」
「……もう少し状況がはっきりしたら説明するから待ってて」
不思議と誤魔化されたとは思わなかった。以前のジルなら「リアには関係ない話だよ」と言いながら、別の話題に誘導しただろう。しかし今回は「今は話せない」と告げたに過ぎない。後で説明すると言うのなら、待てばいい。
「わかった」
納得したルリアージェにライラが溜め息を吐いた。
「この男に甘い顔をしていたら、いつか食べられちゃうわよ。リア」
「神族や魔族は人を食べるのか?」
初めて聞いたぞと無邪気に尋ね返すルリアージェの純粋さに、ライラは逆に赤面して「違うわ、あたくしは人食いなんてしないわよ」と必死に否定する。首をかしげるルリアージェに悪気はなく、見ていた魔性達はくすくす笑い出した。
鈍い主をもつと、恋愛すらままならない――苦笑いする最強の魔性が絶対に勝てない美女は、表情をふわりと和らげた。
0
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる