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第十七章 迷宮という封印

第68話 水の魔王の意地(3)

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「譲ってもらえると有り難い」

 リオネルの申し出に、リシュアは素直に数歩後ろへ身を引いた。どうぞと譲る姿勢をみせる。彼らの因縁は後から知ったが、自分には遮る権利はないとリシュアは考えていた。

 かつて封印された大戦で、トルカーネへ奇襲をかけるリオネルの邪魔をしたのがレイシアとアーロンだ。

 水⇒火⇒風⇒地のことわりで考えれば、水の魔王トルカーネに対するのは大地の魔力を持つ魔性が向いている。しかし当時はライラも敵に回り、地の魔王であるジルの父親は消滅していた。

 次に対応できる属性を考えれば、風のリシュアだ。しかしジルにより戦線から遠ざけられたリシュアはおらず、同じ水のパウリーネは魔力量で魔王に劣る。

 風と火の魔王を2人相手とった主君や、相性が悪いライラと戦っているパウリーネを前に、リオネルは最悪の相性であるトルカーネ達と戦った。

 今思えば、敵の作戦に乗せられたのだろう。不利な属性になるよう、上手に調整されてしまった。それでもリシュアの手を借りようとしなかった主を、誇りに思いこそすれ疎む気持ちはない。

 2人の魔王相手に堂々と勝ちを収めたジルは、途中で何を考えたか抵抗をやめた。封印の巨大な渦を目の前にしても、動こうとせず防がない。ならば諸共に滅びればいいと納得して従ったのだが……。

「……蒸発させたいくらい、憎んでいますよ。あなただけでなく、他の水の眷属すべてを」

 固有の能力である影を出現させて、アーロンを飲み込んだ。己の得意な領域に引きずり込んで戦う気なのだろう。不利なはずの海底でも十分勝てる相手にここまでするのは……見せられないほど残虐な殺し方をするつもりらしい。

「……お気の毒ですね」

 敵でも、いや敵だからこそ同情してしまう。手加減なしのリオネルと戦うなど、リシュアでもぞっとする。口で同情しつつ、満面の笑みを浮かべたリシュアは首を横に振った。

 周囲を取り囲む水の魔王の眷属達の気配に、ジルは笑みを深める。どうやらトルカーネは自ら仕掛ける前に、罠を用意していたらしい。この海底を選んで転移させた魔法陣も、現在の海底に刻まれた古代の魔法陣も、どちらも会心の出来だ。

 水の魔王として、自らの魔力のみで死神に勝てないと知っている彼が遺した最期の意地だろう。トルカーネが消滅すれば、復活するのは数万年単位の時間がかかる。配下にした眷族の魔性達は全魔力を投入して、与えられた役目を果たすはずだ。

 補いきれない魔力量の差を、数で埋めようというのか。たいした策士だ。己の配下すべてを犠牲にして駒を打つなど……それでこそ魔王の名に相応しい。

 ジルの口角が笑みの形に持ち上がった。

「最期の意地なら、正面から受けてやるよ」
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