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第十七章 迷宮という封印

第65話 神々の廃墟にある卵(3)

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 神族の血に反応する仕掛けだった。治癒能力が高い神族だからこそ考えついた仕掛けともいえる。

「ジル?」

「もう傷は塞がったよ」

 ほら、と手のひらを見せるジルの声と被って、低い音が響いた。大きな石を動かす音がゴゴゴ…と大地を伝って足の裏に伝わる。水晶の台座が2つに割れると、上に乗っていた水晶が割れた穴に吸い込まれた。

 続いて階段が現れる。

「この下にあるはずだけど」

 さすがのジルもこの先に入ったことはない。初めての場所へ先に足を踏み入れ、ルリアージェの手をとってエスコートした。触れている指先から展開した結界が彼女を包み込む。

「神族の秘宝が楽しみですわ」

 パウリーネは明るい声で2人の後を追う。大地の裂け目に似た空間を覗いたライラは「亜空間ではないのね」と不思議そうに呟いた。亜空間はジルもライラも使うが、元は神族が作り出した空間なのだ。ゆったり時間が流れる場所に隠したと想像したライラの疑問は当然だった。

「ずいぶんと仕掛けが大げさですね」

「神族らしいのではありませんか」

 リオネルとリシュアは仕掛けの方が興味深いようで、水晶が落ちた先や階段を観察しながら下りていく。

 地下をさらに降りた先は、まばゆいばかりの光が満ちていた。目が痛くなるほどの強い光に、誰もが目元を手で覆う。細めた視界の中で、白い光の発生源が見えた。

「……これが?」

「外そうか」

 目を庇うことなく、ジルは無造作に手を伸ばして宝玉を外した。上から注ぐ光を増幅するよう計算された台座は、宝玉がなければ自ら光を放つことはない。眩しい光は霧散した。残ったのは白い壁がわずかに反射するぼんやりした明るさだけ。

「暗くなったぞ」

「うーん、さっきまで明るすぎたんだ」

 ルリアージェが瞬きを繰り返し、ようやく目が慣れたため目を押さえていた手を離す。隣のジルの手に握られた宝玉は、彼の手のひらに余る大きさだった。透明の大きな金剛石だ。いや、よく見ると虹色に光っている気もする。

「宝玉自体は思ったより地味ね」

「ダイヤモンドだけど、この大きさだと水晶みたいだわ」

 女性達の感想を他所に、リオネルとリシュアは落ちた水晶が階段を跳ね上げ固定した仕組みに興味を惹かれていた。床に沈んだ水晶を魔力で少し浮かせ、階段が動くのを確かめる。

「よく出来ていますね」

「からくりの一種でしょうか」

 纏まりのない集団を他所に、ルリアージェはジルに尋ねる。

「この石は触れても平気か?」

「今はただの宝石だ」

 意味ありげな笑みを浮かべたジルがルリアージェに宝玉を渡す。素直に受け取ったルリアージェはその重さに驚いた。落とさないよう両手で包み込む。

「すごく重い」

 頭上で何か音がする。しかし宝玉やからくりに夢中の彼らは気付かない。いや、気付いたジルは一瞬だけ視線を上に向けたが、無視した。
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