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第十三章 龍炎と氷雷の舞

第40話 曲解と暴走は得意(1)

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 魔王と同じ居城を構える空間に攻め込んでおいて、簡単に勝てるとは思っていない。上級魔性にとって、自分より上位の魔性の領域に入り込む恐怖は、消滅と同意語だった。

 氷雷レイリの不意打ちはまったく効果をもたらさず、あっさり防がれる。無効にされたのだから、防いだとすら言えない。

 黒い翼を広げたジルが左手に死神の鎌アズライルを呼び出す。世界を作った闇帝あんていの手にあったとされる伝説の武器は、自我があるため、己の意思で攻撃を行うことが出来た。

 対するライラは先ほど生み出した淡い緑色の人形を使うらしい。ルリアージェの腕から降りた人形は、地の精霊王の娘に近づいて手を差し出した。

「さあ、氷を溶かすマグマの熱をあげるわ。雷だって怖くなくてよ」

 笑いながらライラが人形に真っ赤な剣を与えた。風の派生である雷を封じるには火が強い。しかし氷は水の派生だった。本来ならば火より水が強い。しかし凍った状態ならば、火の大きさによって押し切ることが可能なのだ。

 水そのものを扱う魔術を使えないレイリの弱点を、長寿のライラはよく知っていた。彼女がラヴィアを助けに飛び込んだことも理解している。氷雷のレイリが魔王達に膝を折らなかった理由がここにある。

 単に、惚れた男のために主を持たなかっただけ。

 知らぬはラヴィア本人ばかりなり。魔王達はレイリの思いに気付いたため、執拗に彼女を追うことをしなかった。そして惚れた男を助けようと、彼女は消滅の危険を承知の上でジルへ攻撃を仕掛けたのだ。

「オレが裂くから」

「え、あたくしのこの子に任せて」

「無理」

 ジルとライラの大人げない言い合いに、レイリはぞっとした。逆に状況がわかっていないルリアージェは苦笑いする。対照的な2人の今後の運命もまた正反対だった。

「仲良くしろ」

「わかったわ。あたくしが譲ってあげてよ」

 ジルが引くことはない。そう判断したライラが人形を数歩後ろへ下げた。次の瞬間、魔法陣も呪文もなしでジルが転移した。己の力を最大限に発揮できる空間だ。見える範囲での転移に魔力すら使わない。そのため事前の動きに気付かなかったレイリの対応は遅れた。

「っ……」

「はい、真っ二つ。リアの命令だから半分やるよ」

 二つ名をもつ上級魔性は、抵抗も許されずに裂かれた。上から二つに裂いた身体が、存在しない重力に引かれるように分かれる。落ちていく半身を見送るレイリは愕然とした。
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