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第十一章 迷惑な客
第29話 サークレラ国王崩御(5)
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ルリアージェが呼ぶ声に、ジルはすぐに反応した。消え行く魔法陣の中心に立つ美女は、汗で張り付いた銀髪を手で払いながら微笑む。
「助かった、ありがとう。リシュアとリオネル、ライラも」
名を呼ばれた上級魔性達が優雅に一礼して、ルリアージェに礼を尽くす。大きな魔法陣を制御したことで疲れた脳を休ませるように、少しの間目を閉じた。
心地よい風が吹き抜けていく。肌寒いくらいの気温だが、汗ばんだ肌に丁度よかった。何度か深呼吸してから蒼い瞳を開く。映し出された景色は、美しかった。
復元された公園は、大木が白い花を散らす。屋台やベンチも元通り、幸いにして死者がいなかったらしく、回復したケガ人は互いに安全を確かめ合っていた。
「リアの命令だから当然だ」
優しいジルの声にほっと息をついて、中断してしまった花火や祭りを残念に思う。彼らの傷を回復させて、物の記憶を戻しても、人々の中に恐怖の記憶は残ってしまった。それ故に集まった人々は、怯えた目で上空を見つめて帰宅準備を始める。
「もう祭りは無理か」
がっかりした声で呟くと、リシュアが笑いながら首を横に振った。
「今年は無理ですが、来年もあります。また遊びに寄られたら良いのではありませんか」
「ん? 今年国王が崩御したら、来年は喪に服すんじゃないか」
ジルのもっともな指摘に、リシュアが眉を顰める。散って落ちる花びらが積もった銀髪から、ジルはひとつずつ丁寧に花びらを拾いながら首を傾げた。
「喪に服すのを禁止しましょうか」
「いや、再来年で構わない」
国の名前が途中で変わっていたとしても、1000年近い年月守り続けた国王の退陣を国民が嘆くのは当然の権利だ。もちろん、彼らが何も事情を知らないとしても。奪う権利はルリアージェになかった。
魔性にそういった感傷があるかわからないが、惜しんでもらうのは悪い気がしないだろう。
「ところで、足元の魔性は持ち帰るのか?」
連れて帰るのではなく、持ち帰ると表現したことでジルの認識がわかる。足元の魔性を者ではなく、物として扱っているのだ。
魔王や上級魔性にとって、実力がすべてだった。効率的で大規模な魔術を会得していれば、魔力量がさほど多くなくても側近候補になれる。裏を返せば、実力を認められない魔性はその他大勢でしかない。
魔性達の認識を知っていても、ルリアージェは複雑な心境で溜め息を吐く。人間も能力の有無で態度が変わることはあるだろうが、存在自体を物として扱うほど極端ではないため、どうしても違和感が先に立った。彼らと一緒にいると、いずれこの感覚にも慣れてしまうのか。
「ええ、使えるでしょうから」
「助かった、ありがとう。リシュアとリオネル、ライラも」
名を呼ばれた上級魔性達が優雅に一礼して、ルリアージェに礼を尽くす。大きな魔法陣を制御したことで疲れた脳を休ませるように、少しの間目を閉じた。
心地よい風が吹き抜けていく。肌寒いくらいの気温だが、汗ばんだ肌に丁度よかった。何度か深呼吸してから蒼い瞳を開く。映し出された景色は、美しかった。
復元された公園は、大木が白い花を散らす。屋台やベンチも元通り、幸いにして死者がいなかったらしく、回復したケガ人は互いに安全を確かめ合っていた。
「リアの命令だから当然だ」
優しいジルの声にほっと息をついて、中断してしまった花火や祭りを残念に思う。彼らの傷を回復させて、物の記憶を戻しても、人々の中に恐怖の記憶は残ってしまった。それ故に集まった人々は、怯えた目で上空を見つめて帰宅準備を始める。
「もう祭りは無理か」
がっかりした声で呟くと、リシュアが笑いながら首を横に振った。
「今年は無理ですが、来年もあります。また遊びに寄られたら良いのではありませんか」
「ん? 今年国王が崩御したら、来年は喪に服すんじゃないか」
ジルのもっともな指摘に、リシュアが眉を顰める。散って落ちる花びらが積もった銀髪から、ジルはひとつずつ丁寧に花びらを拾いながら首を傾げた。
「喪に服すのを禁止しましょうか」
「いや、再来年で構わない」
国の名前が途中で変わっていたとしても、1000年近い年月守り続けた国王の退陣を国民が嘆くのは当然の権利だ。もちろん、彼らが何も事情を知らないとしても。奪う権利はルリアージェになかった。
魔性にそういった感傷があるかわからないが、惜しんでもらうのは悪い気がしないだろう。
「ところで、足元の魔性は持ち帰るのか?」
連れて帰るのではなく、持ち帰ると表現したことでジルの認識がわかる。足元の魔性を者ではなく、物として扱っているのだ。
魔王や上級魔性にとって、実力がすべてだった。効率的で大規模な魔術を会得していれば、魔力量がさほど多くなくても側近候補になれる。裏を返せば、実力を認められない魔性はその他大勢でしかない。
魔性達の認識を知っていても、ルリアージェは複雑な心境で溜め息を吐く。人間も能力の有無で態度が変わることはあるだろうが、存在自体を物として扱うほど極端ではないため、どうしても違和感が先に立った。彼らと一緒にいると、いずれこの感覚にも慣れてしまうのか。
「ええ、使えるでしょうから」
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