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第十一章 迷惑な客

第29話 サークレラ国王崩御(1)

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≪哀れみ誘い舞い踊れ、悲しみ浸り沸き起これ、空が怒り地は嘆く。ああ、彼の御方は白き御手を伸べられる…尊き御身をあけに染めることなく。癒しの森は震える鈴のごとし――『深緑のヴェール』≫

 美しい鮮緑の魔法陣が展開される。治癒の祈りを込めた魔術がひとつの大きな円を作り出した。その範囲内にあった子供たちが起き上がる。傷が治った場所を不思議そうに眺め、近くで倒れている人へ駆け寄って助けようとし始めた。

 心優しい国民の姿に、リシュアが表情を和らげる。それから主であるジルへ頭を下げた。

「我が君、私も国民の救出に手を貸したいと思います」

「許す」

 主の声に深く頭を下げたリシュアが膝をついて、大地に手を触れる。彼の手の下に新たな魔法陣が生まれ、青みがかった緑が波のように広がった。

≪華やかな過去を呼び起こすために、大地よ、我と踊れ≫

 魔術の名前はなく、彼は淡々と大地に命じる。詠唱が終わると、魔法陣は一気に拡大した。都全体を包み込むほど広がっていく魔法陣の文字は、かなり上空から見ないと読み解けない大きさになる。

「大地の魔女たるライラが命じる。リシュアが求める形に、すべてを正しなさい」

 精霊王の子であるライラに詠唱も魔法陣も必要ない。彼女は神族が精霊に望むと同じように、ただ望めばいい。己が欲する形を示せば、精霊達はこぞって協力してくれるのだから。ライラの声が響いた途端、リシュアの魔法陣に強い緑の光が加わった。

 崩れた屋台が元の形を取り戻す。その隣で折れて引き裂かれたサークレラの木が、巻き戻すように起き上がった。散らしてしまった花びらが元の木に吸い込まれて枝を飾り、割れた石畳が復元される。

 時間を巻き戻す術ではない。以前にジルがアスターレンの首都ジリアンで使用したのと同じ魔術だった。物がもつ記憶を水月のごとく写し取って、現世に反映させる。大量の魔力を必要とするため、人間は行使不可能な術だった。

 あっという間に物が修復される。倒れている人々を癒すジルの術と違い、ライラとリシュアが行使した魔術では人々は治らない。ひとつ大きく息を吸ったルリアージェが魔力を込めて魔法陣を広げた。

 魔法陣の外円に触れた人々は消えた痛みや傷に驚き、すぐに周囲で倒れている者を助けようと動く。リシュア自身が長い時間をかけて護り続けた人々は、我先にと逃げ出すことをしなかった。目の前に立つ魔性に怯えるより先に、1人でも多く助けようとする姿勢は人族がもつ可能性のひとつだ。

「リア、あたくしの魔力を使うといいわ」
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