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第九章 魔の森

第23話 魔の森のお茶会(2)

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 ライラの指摘に小首をかしげて、記憶を探っていく。ジルは真剣に考えたあと、いきなり空中に魔法陣を浮かべて手を突っ込んだ。リアの使う結界を使った魔術とは違う、空間魔術の一種らしい。

 魔術で繋がる空間が違うため、効果も多少異なる。ジルが繋ぐ亜空間には生き物を生きたまま保存可能だが、ルリアージェが繋ぐ時空間は生き物は入れられなかった。無理やり入れても時間が止まって死んでしまうだろう。

 魔法陣は小さく手が入る隙間しかなかった。通常、大き過ぎる魔法陣と小さな魔法陣は難しい部類に入る。なぜならば魔性と違い、人間の魔力には限りがあった。大きすぎる魔法陣を描こうとしても魔力が足りない。逆に小さな魔法陣は、刻む文様の細かさから描きにくいのだ。

「これは違う、これも……いや、こっちかな?」

 何やら探しながら、次々と毛皮を外に放り出す。取り出す物の大きさに合わせて、魔法陣の大きさが変化するのは技術の高さをうかがわせた。だが彼が『大災厄』だと知っていれば、当たり前すぎる光景かも知れない。

「あった、これ!」

 白、茶、茶、白、黒と積み重ねられた毛皮の最後に、ジルは得意げに濃グレーの毛皮を乗せた。どれも毛布に使えるほど大きいが、最後の濃グレーは倍近い大きさだ。寝具に出来るサイズの毛皮を片手で持ち上げるジルは、残った毛皮をすべて魔法陣の中へ戻した。

「こっちが熊だ。色が似てるから間違えた」

「あら、この熊知ってるわ。たしか魔の森の主じゃない?」

 にこにこと毛皮をコートに変化させるジルが、狼らしい毛皮を魔法陣に放り込んで消す。代わりにコートに加工された熊の毛皮が肩に乗せられた。正直、熊でも狼でも温かければ構わないルリアージェは、文句を溜め息で潰した。

 どうせ文句のひとつやふたつ、奴は聞かなかったフリで流してしまう。

 それより何やら物騒なセリフを吐いたライラが、近づいて毛皮を確かめている。あちこち確認した後で、くすくす笑い出した。

「ほら、ここ。昔あたくしとケンカした際に風の矢を受けた痕跡よ」

「……いきなり襲ってきたから倒したが、そうか。あれが魔の森のグリズリーか」

 本来はもう少し茶系の熊なのだが、ボス熊だけ濃グレーをしている。御伽噺で聞いたことはあったが、まさか倒されて毛皮になったとは知らなかった。子供の頃に寝物語で聞いた話を思い出す。

「御伽噺で聞いたぞ」

「ああ、それはコイツの子孫だろ」

 倒された熊の子孫が、御伽噺として聞かされた熊だとすると……何世代後の熊だろうか。さわり心地の良い毛皮を撫でながら、奇妙な感覚に苦笑いした。伝説の熊をコートにするなんて、ひどく贅沢だ。

「気に入った?」
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