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第六章 幻妖の森

第18話 幻妖の森の迷子たち(4)

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 座標が当てにならない=(イコール)転移が使えない。笑顔でとんでもない事実を告げるジルの耳を引っ張って、間近で命令した。

「す、ぐ、戻、れ」

「うーん、戻った先で攻撃されそうじゃん? オレはいいけどね、アスターレンに戻るの?」

 そう問われると、戻るのも考え物だ。魔術による攻撃はジルがいれば無効化されるので問題ないとしても、折角復興へ歩き出した国を魔性連れで脅かすのも忍びない。本当に申し訳ないので、選択肢として却下だった。

「他の場所……そうだ。あの丘は?」

「え? オレがやだ」

 ルリアージェは盛大に溜め息を吐く。変な植物が闊歩かっぽし動物を襲う森より、あの丘の方が絶対に安全だろう。しかも人間が治める国や都ではないから、他人に迷惑をかける可能性も限りなく低かった。何が不満だというのか。

 視線にすべての思いを込めて睨むと、ジルはふわりと微笑んだ。

「そんな可愛い顔してもダ~メ」

 腹が立つ。自分より綺麗な男に可愛いといわれても、まったく信憑性がない。しかも内容がまた腹立たしかった。普段は『願いを叶えてやる』と偉そうに恩を着せるくせに、肝心な場面で役に立たない。

「ならば、この幻妖の森に住むのか?」

 絶対に嫌だと拒絶の意思を込めた声で告げれば、さすがに怒らせたと理解したジルが困ったように眉尻を下げた。高い位置でひとつに結んだ黒髪を握って引っ張るルリアージェが、じっと見上げる。

 さあ、どうする? そんな態度に、ジルは肩を竦めて案を提示した。

「選択肢はあるぞ。このままこの森に身を潜める……これは嫌だろう? だったら、オレが知っている中で座標が確定できる場所に転移する。またはアスターレンに戻る。いっそリオネルがいる場所に飛ぶ手もあるか」

 少なくともリオネルが岩や水の中にいる可能性は低く、安全性が高いだろうと提示したのだが、ルリアージェは蒼い瞳を大きく見開いた。

「リオ、ネル?」

 誰? 素直な表情にジルが小首を傾げる。すでに会わせた気になっていたが、よく考えたらリオネルを呼ぶ前からルリアージェは意識がなかった。つまり、まったく知らない名前なのだ。

 大災厄として封じる際、元から数が少ないジルの配下は一緒に封じられた。同じ封印の中は危険だと判断されたのか、個々に封じられているが……ルリアージェにしたら、突然現れた名前に驚くのも当然だった。
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