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第四章 王宮炎上

第15話 命の対価(3)

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「ぐっ……」

 足元から浴びせられた粉が、風の壁に吸い込まれて降りかかる。きらきら光る白い粉は風に踊りながら、ジルとルリアージェを覆った。

 直後、ジルの全身は痺れて動けなくなる。粉が触れた場所から力が抜けていった。霊力を中和しながら舞う粉によって、精霊達が大気に解放される。

 霊力の塊である精霊を殺せる、分解することが可能な唯一の粉だった。現在では入手する術のない材料を粉砕して作り上げるもの。

 かつてのジル――帝国滅亡の大災厄であり、死神と恐れられたジフィール――を封印した際に使われた粉だ。1000年前はともかく、製法も原料も失われた今ではだった。

「……誰が」

 誰が持ち込んだ? 誰が保管していた? そして、何故このタイミングで使ったのか。

 霊力と精霊を使役するために広げた翼があだとなった。体内を巡る霊力の流れが阻害され、全身を切り裂く痛みが走る。

 魔性として痛みに耐性があるジルであっても、その激痛は息苦しいほど強い。いや、普段痛みを感じない魔性だからこそ、痛みに弱いのかも知れない。

 腕の力が緩みかけ、必死で彼女を抱き寄せた。腕の力では足りず、翼でぎこちなく覆って包み込む。彼女を落とすくらいなら、腕を切り落とされる方がマシだった。

 まだ目覚めぬ彼女を地に落とすわけにいかない。風の障壁の中に満たした霊力を捨て、消耗した身で魔力を紡ぎだす。激痛の走る翼を消したジルは大地の上に膝をついた。

「ぐっ……」

 胸を走る痛みに、粉を多少吸い込んだことを知る。体内で暴れる粉を血と一緒に吐き出した。押さえた手が赤く染まり、ジルは無造作に黒衣の端で口元を拭う。

 息が切れる。
 苦しい。
 霊力を引き裂く粉の激痛が全身を支配した。

 意識が赤く染まる。
 怒りが身のうちを満たした。

 黒き翼をもって空を支配した魔性は、焼き尽くした敵の残骸が降り注ぐ中で荒い息を整える。この粉は前哨戦だ。本番はこれからだった。




「やったぞ!」

 次々と空間を裂いた魔性達が現れ、アスターレンは国史始まって以来の危機に陥っていた。魔性は群れで行動しない。人間に興味を引かれて集まっても、1~2人だった。それが10人を超える上級魔性が王宮の上空を覆うなど……国家存亡の危機だ。

 たとえターゲットが――国ではなくジルであったとしても。
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